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今日は久しぶりに定時に仕事が終わり、電車を降りた俺は帰路に着いていた。
先日の特売の日にスーパーで買い出ししていたし、スーパーに寄る必要は無いか、と夕飯の支度を考えながら歩いていた。
と、その時だ。
「ママ」
唐突にスラックスが掴まれ、見下ろすと、かなり小さな男の子が愛らしい大きな瞳をうるうるさせ、俺を見上げていた。
「....ママ?」
「あいたかった、ママ」
...言っておくが、俺、木村誠は女装癖は無い。
しかも、今はグレーのスーツ姿。
ママに間違われる程、髪は長くもないし、特別、女性的な顔立ち、て訳でもない。
「....迷子、かな?」
腰を折り、視線を合わせて頭を撫でると、子供ながらの力で抱き締めてきた。
「ママー!」
そして、泣きまくる。
どうしたものか、と、思っていた矢先。
「理一!何処に行ったかと思ったら!」
俺より僅かに年下だろうか、若い父親らしき男性が焦った様子で走ってきた。
「す、すみません!こら、離しなさい!理一!」
「やーだー!ママ見つけたのー!」
申し訳なさそうに謝られ、男性が男の子を引き剥がそうとするが...離れない。
ぐーきゅるる...
不意に大きな腹の虫が鳴いた。
ぷ、と吹き出した俺は、
「お腹すいてんのか?」
男の子に話しかけると、うん、と恥ずかしそうに頷いた。
「うちのマンション、ここから近いんです。帰宅したら夕飯にしようと思っていましたから、御一緒に如何ですか?」
この子の父親に提案した。
「で、でもお邪魔じゃないですか...?」
そうして、幾つ?と尋ねると、ピースサインされ、2歳だとわかった男の子、理一とその父親、佐藤陽平、俺の二つ下、23歳だとマンションに着くまでにわかった。
なに、子持ちの女性を自宅に招くのは問題があるだろうが、同じ男同士だ。
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