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序章
『“ダークウェブ”あなたはこの言葉を聞いたことがあるだろうか?
ダークウェブとは普段、我々が使っている一般のWebサイトの最下層に存在する、闇のサイトのことだ。
普段、我々が使っているWebサイトはサーフェイスウェブ(表層Web)と言われるもので、googleやyahoo! などの一般の検索エンジンで見つけることができる、誰でもアクセス可能なサイトだ。
実はこのサーフェイスウェブは広大なインターネットの世界に浮かぶ氷山の一角のようなものだと言われている。
サーフェイスウェブの下にはディープウェブ(深層ウェブ)というものがあり、一般の検索エンジンでは見つけることができない。
アクセス時にログインとパスワードが必要とされ、インターネット上の90%の情報をこのディープウェブが占めていると言われているので、サーフェイスウェブが氷山の一角に例えられるのも頷ける。
何やら怪しい響きのするディープウェブだが、そのほとんどの情報は合法で、企業の社内ネットワークだったり、非公開のS N Sアカウント、ショッピングサイトの会員情報だったりする。
さて、ここからが本題だ。
ダークウェブはそのディープウェブの下、インターネット界の最下層に存在する。
ディープウェブと同様、一般の検索エンジンで見つからないように設定されているだけでなく、Internet ExplorerやSafariなどのWebブラウザーでは観閲できない。
アクセスするには専用のツールが必要である。
匿名性が高いことから、ダークウェブでは違法性の高い情報や物品が多く扱われており、犯罪の温床となっていると言われている。
普段あなたが何気なく使っているインターネット。
膨大な情報の海を探索していると思ったらそこは氷山の一角で、その下にはあなたの知らない巨大な氷が隠れている。
その底辺、太陽の光も届かぬ深海に、じっと息を潜めている氷がある。
好奇心がくすぐられる? 覗いてみたい? いや、覗かぬ方があなたのためだろう』
いきなり肩を叩かれ僕は文字通り飛び上がった。
スマホが手から離れ、嫌な音を立てて床に落ちた。
振り向くと、僕が大袈裟に驚いたことに驚いた図書館の職員が立っていた。
「もう閉館ですよ」
見回すと僕以外誰もいない。
「本、借りられますか?」
机の上に積み上げられた本に視線を移した職員に訊かれる。
「い、いや、今日はいいです。すみません、すぐに出ますので」
職員は無言で頷き行ってしまった。
床に落ちたスマホを拾うと、画面にひびが入っていた。どうりでさっき嫌な音がしたはずだ。
図書館を出てバス停に行くと、次のバスまであと三十分もあった。駅まで歩くかどうか迷い、バス停のベンチに腰を下ろした。
そう、あれは夏休みに入る直前のことだった。
昼休みを一人図書室で過ごした僕が教室に戻ると、クラスの男子たちが教室の隅で一つのスマホを覗き込んでいた。深刻で怯えたようなその様子から、みんなで恐怖動画でも見ているのかと思った。
そのうちの一人がふらりと僕の方にやって来た。
「ダークウェブ、やべえ」
すれ違いざまにそう呟いた。
ダークウェブ? なんだそれ?
気にはなったが、その時はそれで終わっていた。
それが今日、ふとそのことを思い出した僕は、スマホでダークウェブという言葉を検索してみたのだった。
ダークウェブの存在を知ったところで、今の僕にダークウェブはなんの影響力も持たなかった。
僕にはもっと重要なやらなければいけないことがある。
夕暮れの空に半分だけの月が現れていた。
上弦の月だ。
ここ最近、月に少しだけ詳しくなった。
満月までそう日にちはない。急がないと。
道の向こうから、大きな体を揺らしながらバスがやって来た。
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