Lost and find

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 月の光も入らない裏通り。明滅する街灯に照らされる不定形のものを手に持った棒のようなもので殴る。  不定形のものは不気味な叫び声を上げながら、オレに触手を伸ばす。すかさずそれに粘度の高い透明な液体をかけると、焼けるような音を立てて溶けた。  オレの仕事は街のあちこちに潜む、こういった悪意や悪霊を祓う退魔師だ。  人の悪意はいつもどこかに漂っていて、凝り固まってこういうわけのわからないものになる。これを放っておくと害がでるので、オレみたいなやつらが必要になるのだ。  弱った不定形のものにとどめを刺すように、悪霊を祓う時にいつも唱えてる文言を口にしながら棒のようなもので殴り続ける。そして、ぐったりしたところでまた粘度の高い透明の液体を全体にかけると、そいつはなにも言わずに消え去った。  これで今回の仕事はおわりだ。オレは仕事道具を入れているドクターバッグに、除霊に使った道具を念入りにしまって閉じる。この鞄の中身を見られたらまあまあ大変なことになるのだ。  裏通りを通って大通りを目指す。大通りに出る前にすこしだけようすを窺って、さりげない風を装って人波に紛れた。  夜になったとはいえ、大通りはまだ人が多い。このあたりは治安もそんなによくないから、ガラが悪いやつもいるだろうから気をつけないと。そのあおりをくらって職質されるのも勘弁願いたいところだ。  そう思いながら歩いていると、突然声を掛けられた。  なにかと思って振り返ると警察官だ。  これはまずい。あの裏通りでなにをしていたのかとか、荷物を見せろとか言ってきた。職質だ。 「このあたりで薬物の売買が行われているらしいんですが、持っていないかどうか見せてもらえませんかね」  これは下手に断ると厄介なやつだ。  しかたがないので、オレは渋々ドクターバッグを開いて中身を見せる。  中に入っているのは除霊道具なのだが、それを見て警察官は明らかに不審そうな顔をする。 「……こんなものを大量に持ち歩いてなにをする気だったんだ?」  警察官が訝しがるのも無理はない。おれが除霊に使っているのはアダルトグッズ。そんなものを鞄いっぱいに詰めていたらこうなるのはしかたがないし、実を言うとこうなることも珍しくない。  なので、オレは照れたように笑ってこう返す。 「これから恋人の家に行くんですけど、恋人がこういうの使うの大好きで。 まあ、オレも好きなんですけど、それでいっぱいあるんですよね」  それを聞いた警察官は、難しい顔をしてさらにこう訊ねてきた。 「さっきあなたが出てきた裏通りから、卑猥語を連呼する声が聞こえてきたという通報が来てるんですが、もしかしてそれもあなたが恋人と?」 「そうですそうです。 待ちきれなかったみたいで電話でちょっと」  卑猥語は悪霊が嫌うものなので除霊の時に口にしがちなのだけれども、除霊のために唱えていたと言うと余計に面倒なことになるので嘘をつきとおす。  すると、警察官はおおきな溜息をついてこう言った。 「あのね、そういうのは外でやらないでください。 なにか悪いことしてるわけじゃなさそうなんでこれ以上なにも言いませんが、気をつけて下さいよ」 「はい。すいません」  オレが鞄を閉めると、警察官はそのままどこかへと去って行った。  これでやっとひと安心だ。なんだか除霊よりも警察官の対応で疲れたな。  ふと、スマートフォンで時間を見る。終電まであと一時間といったところだ。  こんな夜には、あそこに行きたい。行きつけの店に行くために、オレは駅に向かった。
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