この『愛』の証明の仕方

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 結局、朝食はトーストで済ませたが、昼食と晩御飯に使う食材を買いに出掛けることにした。  スーパーは主婦ばかりで大混雑していた。レジ打ちのおばちゃんに、もうすぐタイムセールが始まるわよ、と声をかけられたが、構わずに会計を済ませてスーパーを後にした。  魚やお肉を買ったので、氷を入れているとは言え急いで帰らなければならないところを、帰路途中でパン屋さんに寄った。  グレーをベースにした外観のシックさからはおおよそ此処がパン屋だなんて一見さんには想像もつかないだろうと思われる。  そんな、決して広くはない店内で、こじゃれたパン達が並ぶ。 「うあー! 可愛いっ! これ、新作ですか?」  なっちゃんはキューブ型のオレンジ色のパンを指差して、ニコニコと店主に話し掛けた。テンションが高く、目がキラキラと輝いている。……なっちゃんはパンに目が無い。 「よく気付いてくれたねー! そう、今日から御披露目だよー! 良かったら食べてみてね!」  整った顔立ちのまだ若い店主がウインクする。スラリと高身長で、随分と男前な女性だ。なっちゃんは相変わらずキラキラと目を光らせながら、「買っちゃいます!」と大きく頷いた。  ズキン、と胸が痛んだ。  なっちゃんと出会ってから、私はある病に侵されている。それは、きっとこの先も留まることを知らないーーーー…。 ******  なっちゃん。  私が呼ぶと、なっちゃんは「なあに、茉弥?」と首を傾げた。そこに、被さるようにして唇を重ねた。 「んふふ、どうしたの?」 「………なっちゃん。しよ」 「ん。いーよ」  承諾を得るなり、なっちゃんをふかふかなベッドの上へと押し倒す。ベッドは私達を優しく包み込み、更にそこで行われる背徳的な行為について見て見ぬふりをしてくれる。  優しい世界。  なっちゃんと。なっちゃんとの暮らしと、ベッドの上での世界。ーーーなんて、私に優しい世界なのだろうかと思う。 『男』がこの世から消えてから、私の心は少しだけ静かになった。  貴女が、永遠に手に入ったような気がしたのだ。ーーーでも。 「んっ、まやっ……」  唇だけでは飽き足らず。舌を重ねて、しっかりと絡めて味わって。同時進行でなっちゃんの柔らかいところや敏感なところを沢山刺激してあげれば、なっちゃんはすっかり蕩けてしまう。  真っ赤になって。涙目になって。それで、物欲しそうに私をその瞳に映すなっちゃん。可愛い。大好き。  私は優しい愛撫を止めて、貪るようにその唇に喰らい付き、身体を求めるままにーー又は、求められるままに搔き乱した。 「ま、やっ、あっ、」  必死に私の名前を呼ぶなっちゃん。可愛い。乱れていくなっちゃん。可愛い。好き。大好き。  私の事だけ考えて。その脳みその中を、私で一杯にして。私以外の事は何も考えないで。 (………ああ、どうして……)  こんなに幸せな時間に、あの男前なパン屋の店主が浮かんだ。  大好きなパンを目の前に、なっちゃんは目を輝かせていた。それだけだ。解ってる。 (…………でも。パン屋のあの人が、なっちゃんを好きにならない保証は?)  男の居なくなった世界。それは当然、恋愛や性の対象は同性に移行するだろう。………なっちゃんが、そうだったように。 (…………なっちゃんが、あの人を好きにならない……保証は?)  ざわざわと心が乱れていく。黒い感情が心を支配する。焦る。  私の手の中でこんなに乱れているなっちゃんを、誰か別のヒトが目にする可能性が怖い。  なっちゃんのトクベツが、私ではなくなってしまう可能性が0じゃないことが、こんなにも不安で仕方ない。 「…………茉弥?」  考え込んでしまった私を、なっちゃんが疑問を浮かべて覗き込む。 「なっちゃん、私の事、好き?」 「え? 何を突然、当然の事を?」  なっちゃんから唇を重ねてきた。  幸せ。  じゃあきっと、良いよね。  なっちゃんも、私が居れば、それで良いよね?  世界に、私となっちゃん以外、誰も要らないよね?
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