この『愛』の証明の仕方

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 次の朝。  目を覚ました世界では、相変わらず一番になっちゃんの寝顔が映った。 (………ああ、幸せ)  幸せどころではない。これから先の未来、ずっとなっちゃんしかこの視界には映らないのだ。  なっちゃんと私だけの世界になった今、とてつもない安心感が、私の心をとんでもない程に満たした。 “なっちゃんと私だけの世界”。  そうか、これが『幸せ』だったのか。 「ん…? 茉弥、起きてたの?」 「なっちゃん。おはよ」  繰り返す日々。幸せな日々。色褪せることなんて無い。  その確信に、私はにっこりと微笑んだ。  さらり、となっちゃんの髪を撫でると気持ち良さそうになっちゃんの頭がすり寄ってきた。  幸せな日々。  そう、確信していた。………………のに。  世界に、私と二人きりになったと知ったなっちゃんは、激しく動揺した。 「どうしてっ、誰も居ないのっ……!?」  必死に走り回り、店と言う店の中を覗いて回るなっちゃんを、少し離れた場所から見ていた。  心が少し、モヤモヤとし始めたのはそれからだった。  なんでなっちゃんは、そんなに焦っているのだろうかと思った。だってここは、歓喜する場面なのでは? 「由香里さんっ! 由香里さんっ!」  件の、パン屋に飛び入るなりよく知らない名前を叫んだ。なっちゃんの声が別のヒトの名前を呼ぶのは不愉快でーーーモヤモヤがイライラに変わる。 「ねぇ。だから、誰も居ないから」 「なんでっ!」 「なんでって……。良いじゃん。別に。私はなっちゃんさえ居てくれれば良いし。なっちゃんだってそうでしょ?ーーーーーえ、」  なっちゃんは、何も言わなかった。  でも、表情が全てを語っていた。  なっちゃんは、幸せそうな顔で笑って「そうだね」と言ってくれると思っていた。違った。  彼女は、……………… ******  あの日から、毎晩……なんて言わない。朝だろうと昼だろうと関係無しに、身体を重ねた。 「……んんっ、」  なっちゃんは相変わらず可愛い。甘ったるい声で鳴く。溢れる吐息も色気を増す。少しだけ歳を重ねて、あどけなさが減る代わりに艶が増したように思う。  私達は変わらない。  変わらず世界に二人だけ。常に身体を重ねていた。ーーーけれどそれはもう、愛を確かめ合う行為では無くなってしまった。  どんなに唇を重ねても。舌を絡めても。体温を共有し、乱れ合っても。そこに、満たされる何かは無くなっていた。  私は、空っぽな何かを埋めたくて。見たくない現実を見たくなくて。必死に、その行為を必要とした。  なっちゃんはきっと、ーーー私の事を恐れていた。  あの時のなっちゃんの表情ーーーーその顔は、恐怖に凍り付いていた。理解できないものを見ている顔だった。酷く、絶望した時にする顔だ。  私と世界でたった二人だけになったなっちゃんは、その現実に……絶望したのだ。 「なっちゃん、私の事、好き?」  キスの息継ぎの合間に訊いた。 「え、」となっちゃんの目が一瞬泳いだ。「なにを、当然の事を……」ーーーーーああ。  幸せって、なんだろうか。  どうやったらなれるのだろうか。  私は何を、間違えたのだろうか……。 「……………もう、いいよ」  ぷつり、と、頼り無かった細い糸が……遂に切れた音がした。  私が大好きななっちゃんが、私の事を好きじゃない。ーーーーそんな世界、耐えられるはずがない。
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