同志と話す顔

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同志と話す顔

 やばい。信じられない。    僕は携帯を握りしめてベッドに寝転がっていた。 「レベッカ、譲ってもらって本当にありがとうございます! まさか職場に同志がいるなんて思ってませんでした。  もう少しお話ししたいんですけど、私この後、人と会う予定があって……連絡先、交換しませんか?」  耳に筧さんの言葉が残っている。  今まで交わしたのは挨拶くらいで、過去イチ会話量が多くて、それだけでも嬉しかったのに。  連絡先をもらえるなんて。 「夢みたいだ……」  レベッカを家に迎えるのを楽しみにしていたけど、きっと無事に購入できた時より僕は浮かれていた。      日曜日、夕方18時。  閃光の(フリューゲル)が終わって、携帯のLINE画面を何度も読み込む。連絡先を交換してからやりとりはない。するとしたら、今からだ。相変わらず脳内が騒がしい。 「こっちから連絡するべき?」「いやいや、すぐなんて引かれるかもしれないぞ」「大体リアタイ視聴してるとは限らないじゃないか」「そうだよ今は彼氏と一緒で、後から録画で見るのかも」「ああでもあの展開は誰かと語りたい」「近づくチャンスじゃないか」「ばか、彼氏がいるんだって何度いったらわかるんだ」……。  携帯が振動した。 「うわっ!」  思わず取り落とす。慌てて拾う。  筧さんからLINEが届いていた。 「今週の、見ました?」  それだけ。  観念した僕は「みました」と返す。  それから会話はポンポンと弾んだ。 「あのアルベルトが裏切るなんてね……」 「いや、僕もあれから考えたんですけど、あれフリだと思います」 「え、どういうことですか」 「アリアとレベッカのために、わざとですよきっと」 「ちょっとその考察詳しく聞かせてください」  僕らは画面上で熱く語り合った。  間でコーヒーを淹れて、またやりとりに戻る。不思議な気分だ。僕の部屋に筧さんとの会話がある。カーテンの外は暗いのに、気持ちが明るくなっていく。心が弾む。 「あ、そろそろごはん食べなきゃです」と筧さんからのコメントがきて、会話が終わりそうな雰囲気になった。あぁ……と一抹の寂しさがある中、まさかのお誘いがあった。 「よかったら次の週末飲みませんか?」  画面を見つめて、たっぷり10秒。 「いいんですか?」と送信したのは彼氏に悪いと思ったからだ。でも、意外にも「もちろん!」という返事が帰ってきた。  僕らはアニメをそれぞれの家で見た後、居酒屋で落ち合う約束をした。  静かになった画面を見て、ふぅ、と息をはく。  本当に、いいんだろうか。  浮かれそうになるたび、あのキスの光景がちらつく。僕は頭を振った。  いやいや、筧さんはあくまでも「推し」なんだから。  どうこうなろうなんて思っちゃいけない。思い通りになる恋愛なんてありえないって、夏の失恋で経験しただろう。今日だってたまたま彼氏と一緒にいなくて、暇だったのかも。  飲み会だって、ファンミーティングみたいなものだから。たまたま推しと好きなアニメがかぶっただけ。それだけ。  それだけなんだから。
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