趣味を楽しむ顔

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趣味を楽しむ顔

 退社後、通りを歩く。周囲に会社の人がいないのを確認して裏通りを抜ける。  ビルの3階に目当ての店、「アニメルト」はあった。階段を上るごとに壁に貼られたアニメや漫画のポスターが増えていく。  自動ドアが開くと同時に、頭上からアニソンが降ってきた。  僕は歩みを進める。  入って右側の特集コーナー。そこにお目当てのがいることを祈りつつ。 「いた……!」  SFアニメ「閃光の(フリューゲル)」、主人公アリアの親友、レベッカのぬいぐるみ。あまり入荷がなかったのか、残り一個。  手のひらサイズにデフォルメされた姿がかわいい。早く家に連れ帰りたいと思って手を伸ばした時。  横から同じように出てきた手とぶつかった。 「すみません! ……って、え?」 「え?」  謝罪してきた相手を見て、俺は固まった。  嘘だろ。 「高田……係長?」  筧さんがそこにいた。大きく見開かれた目が僕を見ている。 「えっと……奇遇ですね」 「……ですね」  まともに話したこともないのに、こんなチャンスが来るなんて思ってもみなかった。  だけど、できるなら別の機会にしてもらいたかった。  瞬時に頭の中が騒がしくなる。 「やばい、会社にバレる」「おい、こんな時のために言い訳リスト作ってただろ、あれどこだ」「見つからない」「せっかくの機会だ、目の前の推し2人に集中しろよ」「そんなこと言ってる場合か」「あぁ~やだやだ、給湯室で女の子たちの話題にのぼっちゃう」「いや筧さんなら黙っててくれるんじゃ」「お前いつも見てるだけだろ、筧さんの何を知ってるんだ」「これから知るチャンスがあるかもしれないじゃないか」「彼氏持ちだろ」……。 「……係長?」  彼女が首をかしげる。 「あっはい」 「あの、お好きなんですか、レベッカ」  おそるおそる、といった感じで彼女が聞いてくる。  なんて答えようか迷った。親戚の子に頼まれたとか、友達のおつかいとか、やっと脳内で見つけ出した言い訳リストからどれを選ぼうか迷ったけれど。  先日キスしたところを見た後ろめたさがよぎって、つい口に出ていた。 「はい、アニメ毎週見てます」  あら、と眼鏡の奥の目がきらりと光る。 「私と一緒ですね」  そして彼女は微笑んだ。
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