知った女

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「当時のことを反省する気持ちぐらいは、認めてやったらどうだ?」  あの後、長谷東は理解できないと言って大きな音を立てて社長室を出ていった。呆れ顔の木坂さんに、俺は短く返す。 「今更が過ぎるんですよ」  今になって突然あんなことを言うとは。  あのプライドしかない女王様が、自分のせいではないミスのことで自らが大阪まで出向き、事態を収束させ帰ってきたと思えば、突然の過去への償い。 (南条……、あいつ一体何を)  十中八九、南条が何かしたに決まっている。そうすると決めたのは長谷東でも、切っ掛けは作ってるはずだ。  世戸や八木沢へもそうだが、どうにもあいつの言葉は人を動かす力があるらしい。  そして、それは俺も、か。 『長谷東さんと、ちゃんとお話し……してみませんか』  木坂さんに言われた”認めてやったらどうだ”。その言葉で、南条からの提案を思い出す。  あのときは単に、浮気されたことについての話だと思ったが。こうなっては、今回の件も入れざるを得ないだろう。  結局は、全てが繋がっているのだから。  長谷東を愛し、浮気され、憎み、憎まれ、陥れられ、そしてここまできた。  話し、とは、全てに対してと、そう思ってもいいのかもしれない。  南条が八木沢にちょっかいを出されたとき、あいつは怒るでもなく不安がるでもなく、八木沢を飛び越えて、俺と長谷東を対話させる道を示してきた。 『北原さんにとって辛い過去なのは分かってるつもりです。何もそれをきれいなものにしてほしい、とか、そういうことではなくて』 『ただ、終わったと思った関係だと思っていても、相手がそうじゃなかったら。終われてはいないって、思います。そしてそれは、当事者同士でしか終わらせられない、ものだから』 『北原さん自身でもまだ、はっきりしてない何かは……その、あるのでは、と』  あれは、南条自身の経験から出た言葉だと、俺は知っている。鷹西との一件で、南条は嫌というほどそれを思い知った。そして、当時、鷹西とのことで苦しむ南条に、俺は話せ、と言った。  話してみないと、分からないこともある。  それは、今の俺への言葉でもあるんだろう。 『約束はできねぇけど。今まで考えなかったこと、考えてみるわ』  さっきはつい、売り言葉に買い言葉にもなったが。  あれ(話すの)は、今、なのか。
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