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「最初からこうしていれば、良かったんですね。千晶さん」
「……世戸さん」
「俺を選ばないなら、これくらいのことは容易くできます」
「……ご自分が何を言っているのか、お分かりですか」
握ったスマホを強く握りしめる。
「元々考えていました。あなたがどうしても、言うことを聞いて下さらないなら、と」
「……っ」
「ははっ、初めてあなたの顔が歪んだ。やはり、嫌ですか。会社に影響が出るのか」
「当たり前です」
「なら、どうすべきか。賢明な千晶さんなら、お分かりですよね?」
私のせいで会社に不利益が出るなんて、そんなの耐えられるわけがない。前に、何も気にすることないからと優しくしてくれた社長にも顔向けできない。
「……悲しそうな顔をしないでください。あなたが俺を選べば、俺は何もしませんから」
今日何度目だろう。世戸が手を伸ばしてくる。
この手を取らないと駄目なのか。大好きなあの場所が、崩れてしまうのか。でも、そんな不安を越えて今私の全身を巡るのは、純粋な怒りだった。
だめだ。これ、溢れるやつ。止まらないやつ。
怒りが腹の底から沸き上がる。ここまで話が通じない男だったのか。
もう無理。
(……切りたく、なかったのに)
私は差し出された世戸の手を、バシっと大きな音を立てて払い退けた。
「……なっ!」
「世戸さん。あなたが立場を使われるなら、私は黙ってはいません」
あなたが言わせる。
「取引しましょう」
「……と、取引?」
「私が持ってる情報を、誰にも言われたくないのなら。今の言葉を取り消してください」
「あなたが持っている……情報?」
北原さんに大丈夫だと言った。賭けでも何でも良い。
「世戸さん。あなたは」
絶対に、切り抜けてみせる。
「COFを継ぐ気は、ありませんね?」
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