気になる男

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 南条が見せた笑顔は、“上司の俺”に寄せた信頼からくるものだ。仮に、だ。“上司”でなくなった俺に、南条は同じ反応や信頼を示すのか?  先週、衝動のままに南条に詰め寄り怖がらせてしまった。南条に抱き始めている感情に従っただけで、怖がらせるつもりはなかった。ただ、鷹西のことで揺れ動く南条を見ていたくなかっただけだが。  もう、恋愛などしない、誰にも期待しない、誰にもーー自分の感情は向けるべきではないと、そう思っていたのに。  鷹西とはどういう関係なのか。今も付き合っているのか。そもそも、鷹西のことをどう思っているのか。気になって仕方がない。  理解があり距離感も丁度いい上司という立場を、今初めて後悔している。  尤も今は、鷹西とのことを解決させる方が先だ。  問題は、その解決方法。  南条が相談してくれれば一番簡単なのだが――。 「南条さん、さっきのまとめ直したから見てもらっていいですか? 今送ったので」 「は、はい。すぐ見ますね」 「気になるところあったらピックしておいて下さい。俺、ちょっと古巣に行ってくるんで」 「古巣って、営業……?」 「はい。向こうにある数字で使えそうなのあった筈だから」 「わ、わかりました」  南条と鷹西の会話が目の前で飛び交う。南条はやはりどこかきこちないが、しっかりと鷹西を見て受け答えしているところを見るに、さっきの言葉が効いてるんだろう。  少しでも南条のためになったのならいいが、一人で解決しようとしなくてもいいのにと親心に似た気持ちで寂しくもなる。相談でも愚痴でもぼやきでも、なんでもいい。以前伝えたように頼ってくれれば、もっとフォローしてやれるのに。  南条を呼び止めたとき、本当はあの日の夜のことを聞きたかった。鷹西と何かあったか、と。聞けなかったのは、南条が求める上司とはきっと、程よい距離で見守ってくれる上司だと思ったからだ。    この境界線を越えるのはかなり難しそうだなとは思うが、鷹西とのことで精一杯であろう南条のことを考えれば、今はまだ、それでもいいのだろうか。  そもそも、南条に抱き始めたこの感情を、どう扱うか。昔の自分なら、悩まずそのまま気持ちを向けただろう。  だが、南条は俺にとって失いたくない大切な存在。  あいつに本気で拒絶されたら、これまでの関係がなくなる可能性だって十分にある。  とはいえ、心配。そして、気になるものは気になる。  さて、どうしたものか。 「北原さんもどうですか?」  突然、鷹西に名を呼ばれ正直驚いたが、仕事をしながら部下のことを考えていたなて思わせないほどに自然に答える。 「ん? 何?」 「営業部。ご一緒しません?」 「…………え、俺が? 何で」 「使えそうなもの、一緒に見て下さったら確実だなと思って。“お時間あれば”、ですけど」 「………」  最後の言葉に何か込められている気がする。  思えば、朝南条を連れ出したとき結構な目で見られていた。南条は鷹西との関係を俺に隠そうとするのに、こいつは真逆だ。そのことに気付き、閃く。  南条は頑なに話そうとしないが、鷹西なら。 (感情に任せて、何か漏らすか?) 「おう。いいぞ。行くか」
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