第三十八話

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第三十八話

 各魔国の王が勢ぞろいした魔国会合が始まった。  ところが、場違いな人間の王女二人が居るとあってか、一部の魔族の感情がすこぶる悪いようだった。ただ、主催である中央魔国のルシフェルが認めた参加者とあっては、誰も表立って邪険に扱えなくなってしまった。それ故に不満を溜め込み始めているようだ。それにしても、どうしてここまで人間を敵視するのだろうか。これはイルにも分からない事だった。  さてさて、肝心の会合なのだが、ぶっちゃけて言えばそれぞれの魔国の近況報告と交流会みたいなものである。そして、王族同士の交流という事もあって、互いの子どもの婚姻を結ぼうとする動きだって出てくる。イルからすればどうでもいい話であり、娘ラヴのティタンが嫌った原因でもあった。イルの性格以外にも断った理由があったのだ。イルの奔放さは直すのが困難だろうから、婿でも迎えて継がせた方がいいだろうとティタンは考えている。何にしても、この場でそういう話をするつもりはない。  話をしているうちに、ティタンが連れてきたハサル王国の王女にも話題が及ぶ。自分たちの事に触れられた途端、アリアとカイネの体が強張ったように見える。  これも無理のない話だろう。一般に人間たちの間には魔族は恐怖の対象として広まっている。ティタンとイルをはじめとした、地の魔国の魔族たちが例外的なだけなのだ。  ところが、この話題のフルスイングに噛み付いたのはイルだった。 「この二人は優しいわよ。間違って召喚してしまった私に対して優しくしてくれたからね。まあ、私も自分の力を試したくて、お人好しで助けちゃったのもあるけど」  イルは二人を擁護する。だが、それに対しても他の魔国の者は懐疑的である。 「後ろめたさとか恩とか、確かにあると思うわ。でも、私はこの二人とはいい関係が築けていると思うの。その気になれば種族の壁なんてぶち壊せると思うわ」  イルは冷静を装ったように語るが、その実は激おこである。所詮どこまでいっても、魔族は基本的に自己至上主義なのである。 「しかし、人間の国かぁ? 人間なんざすぐにくたばる貧弱な連中だろ? おもちゃくらいにしかならんだろうが」  ヴァルカンが言いたい放題である。これでいて火の魔国の王なのだから、どれだけ気性の荒い国なのだろうか。口が悪すぎる。さすがに自由奔放なイルですら開いた口が塞がらないくらいである。 「はぁ、分かっていませんね、ヴァルカン」 「なんだとう、リヴァイ」  呆れた口を挟んだのは水の魔国の王リヴァイだった。 「そうあって侮って、何度魔国が窮地に立たされたと思っているのですか。人間は確かに弱い。しかし、その弱い彼らでも時に我々を凌ぐ力を発揮する事があるんです。甘く見てはいけません」  リヴァイの言う話はアリアたちも聞いた事がある。過去に魔族に支配されそうになった時に、一致団結した人間たちが魔族を押し返したと。その時の人たちが、今存在する国の基礎を築いたと伝わっている。これは魔国にもどうやら伝わっているようである。 「あの、確かに私たちはイル様たちにご迷惑をお掛けしましたし、ご恩もたくさんございます」 「ええ、ですから魔族の方々と争うような事は致しません。このまま黙って見学させて頂きたく存じます」  アリアとカイネはどこまでも謙虚だった。 「あらあら、本当に謙虚な子たちね。ティタン殿、よろしければそちらの王女たちと後で話をさせてもらってよくて? 人間たちには興味がございますの」 「構わんが、中央魔国から念のために監視を付けさせてもらうぞ。一応うちの同盟国の王女だからな」  風の魔国の王妃ゼフィは人間に興味があるようだ。ただ、気まぐれな国の王妃なので、何かあっては困るのでイルと中央魔国の人物を付けるように手配をした。  それにしても、魔国の王族たちは曲者ぞろいである。これがまだ数日続くのかと思うと、ルシフェルも頭の痛い話であった。  さてさて、今年の魔国会合もうまくまとまるのだろうか。それは誰にも分からないのである。
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