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第一話
ここは魔族たちの住む領域。
この場所には、五つの属性、地・水・火・風・闇のそれぞれを司る魔王たちが治める国が存在している。
そのうちの一つ、地の魔王ティタンが治める国は、肥沃な土地と豊かな鉱物に恵まれた、魔国の中でも裕福な土地である。
だが、そこに建つ城は、裕福さのかけらもない実に地味な城である。しかし、見た目の地味さとは裏腹に、魔王の城の中でもトップクラスの堅強さを持つ城である。
その城の中から、今日も元気な声が聞こえてくる。
「いけません、イル様。今日こそ勉強して頂きますよ!」
「やーだ。勉強は自力でするもん。受けるのは嫌よっ!」
小さな女の子が、使用人と思われる女性に追いかけられている。会話を聞くに、女の子が勉強から逃げているようだ。
女の子の名前はイル。地の魔王ティタンの一人娘で、現在は十歳ほどの見た目である。
魔族もある一定までは人間と同じように外見が成長し、そして止まる。その止まるタイミングは個人差があり、幼少時に止まる者から老齢になるまで止まらない者も居る。ちなみにイルはまだ成長中だ。
それ以外にも、人間と魔族の間には身体的特徴の違いがある。魔族は全員が頭部のどこかに角を持つ。イルにも角はある。おでこの左側、髪の生え際あたりに小さい角が生えている。
しかし、パッと見た感じではイルに角は見当たらない。実は、その角の部分に編み込んだ髪をかぶせているのだ。
イルはなぜ角を隠すのか。理由は単純で、イルは角が嫌いなのだ。イルの角は大きさは小さいので、どうしてもコブにしか見えない。どうしても好きになれないのだ。
それ以外にも理由はある。
イルは以前に城を抜け出した際に、城下町にやって来る人間を見た事があるのだ。その際に人間に興味を持ったのだ。
しかし、城の教育係からは、人間とはとても仲が悪いと聞かされていたので、人間に近付くには角は邪魔だと思ったからだ。角が見えなければ人間の子どもと誤魔化せる。少女ながらの浅知恵である。
この日もイルは、城下町へと抜け出していた。
城下町に人間の商人がやって来る日を、城の中で密かに入手していたのだ。そして、人間の商人の荷物に紛れる事で、人間の街へ行く事が目的である。
勉強だけじゃ分からない、自分で人間たちの世界を見たい。ただそれだけの理由である。
ところが、城下町に足を踏み入れてしばらくした時、イルの足元が突如として光り出す。そして、何が起きたのか分からないまま、イルは光と共にその場から姿を消したのだった。
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