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第二話
人間の国の一つ、ハサル王国は危機を迎えていた。数百年規模とも言われる、大飢饉が国を襲っているのである。
近隣諸国から食糧を分けてもらおうにも、近隣諸国も飢饉までは行かずとも不作に見舞われており、ハサル王国の食糧事情は危機に瀕していた。
一応、一年分の備蓄はあるのだが、なにぶん貴族連中が我先にと押しかけてくる現状では、庶民にまで手が回るような状況ではなかった。
その状況の中、愚行とも言える策が実行されようとしていた。
少しでもマシになればと、食糧になる魔物の召喚である。狩りに出ても獲物を狩れるとは限らない。そして、帰りがいつになるか分からない。すぐにでも食糧を確保したいがための愚策である。
召喚される魔物は指定できない。もし強い魔物が出てくれば国が滅ぶ。背に腹は代えられないと、この愚策が強行されたのだ。
召喚の陣を取り囲むように立つ黒いローブの魔法使いと、この国の第一王女と第二王女。その周りには、出てきた魔物をいつでも倒せるようにと、多くの兵士が取り囲んでいる。実に物々しい雰囲気である。
各自の準備ができたところで、リーダーと思しきローブの人物が、古代語と呼ばれているよく分からない言葉で召喚の儀式を始めた。周りの魔法使いと王女は、それを補佐するために魔力を召喚の陣へと注ぎ込む。
それにしても、食物を得るために体力を消費するとは、本末転倒で自転車操業のようなものだが、もはやこの国にはまともな思考を持てる余裕は消え失せてしまっていた。それ故に、このような一か八かの行為に及んでしまったのだ。
やがて、召喚の陣に魔力が溢れ、煙のようになった魔力が、陣の上で渦巻き始めた。
……召喚魔法が発動した証拠である。
このただならぬ様子に、周りに構える兵士たちは武器を構える。どんな凶暴な魔物が来ようとも、この国のために命を捨てる覚悟を決めた兵士たちは、冷や汗を流しながらも召喚の陣を凝視し続けた。
やがて、召喚の陣から魔力の煙が吹き飛び、陣の中央には小さな影が見えた。
「成功か?」
リーダー格のローブが呟く。
「んん……?」
小さな影が小さく声を上げて動く。
やがて煙が晴れて、召喚の陣から姿を現したものの全貌が明らかとなる。
「女の……子?」
そう、召喚の陣から姿を現したのは、二人の王女と歳の変わらない一人の少女だったのだ。
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