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第三十二話
というわけで、早速翌日からアリアとカイネの作戦通りに動く。
朝食を済ませると、二人がイルの両脇を抱えてディアナの待つ勉強部屋へと引きずっていく。死んだ魚のような目をしているイルだが、二人も心を鬼にしてイルを勉強に向かわせている。
その代わり、午後は自由時間だ。午前に溜まった鬱憤を、これでもかとイルは畑を爆発させて発散していた。さすがに何度か見ていると、ほとんど驚かなくなってきていた。慣れって怖い。
ちなみに、この日爆破されていた畑は、先日とは別の畑である。ストレス発散といえ、無駄打ちはしないのだ。そして、その日爆破された畑は、小麦が植えられていった。
しかし、この変更は思ったより早く効果を表し始めていた。
午後からは自由だと理解したイルは、午前中の勉強をまともにするようになったのである。午後の自由時間は頑張ったご褒美だと、アリアとカイネから吹き込まれたらしく、それだったらと頑張り始めたのだ。いや、単純すぎないだろうか。ちなみに、そう吹き込んだ張本人であるアリアとカイネが、この単純な性格は騙されやすいタイプだとして警戒し始めるに至っている。ただ、イル自体は悪意などはちゃんと感じ取れる能力があるので、騙されて悪い事に使われる事はないだろうが、これはこれで心配だった。
「信用している人物から変に吹き込まれたら、それ信じちゃいそうですね」
「うん、そこは心配ですね」
「私たちがちゃんとしなければいけませんね」
と、イルの様子を見ながら、二人は気持ちを引き締めていた。
自由時間となった午後は、イルはかなり開放的になっている。その一方でアリアとカイネの二人にはとても懐いていたし、ディアナにはかなり警戒感を表している。やっぱり、勉強漬けによる影響は出ていたようだ。
二日ほど様子を見て、アリアとカイネはディアナに報告を入れる。
「お二人とも、お疲れ様でございます。イル様の様子はいかがですか?」
部屋を訪れると、ディアナは二人を労いつつもイルの様子を尋ねてきた。
「イル様は勉強が相当お嫌いなのが分かりましたね」
「午後の自由時間は、それは生き生きとしておりました。それと、勉強漬けにされた事によって、精神的に参っている様子が見受けられます」
「畑を均すのにいちいち魔法で吹き飛ばしていますからね。畑に向けているだけまだ大丈夫だと思いますけれど」
アリアとカイネは、困った表情をしている。その様子にディアナは驚きを隠せなかった。
「私は……、間違っていたと?」
ディアナが呟くように漏らす。
「いえ、全然教育を受けてくれなかったからと、いきなり完全に縛り付けたのがよろしくなかったようです」
「イル様は本当に自由な方ですから」
アリアとカイネは、腕を組みながらうんうんと頷いていた。
「そういえば、近々魔国同士の集まりがお聞きしましたが、私たちも参加させて頂く事はできますでしょうか?」
アリアが突然思い出したかのようにディアナに尋ねる。
「ティタン様にお伺いしなければならないが、無理という事はないですが。ただ、魔国は人間に対してはかなり敵対的ですから、身の安全は保障できませんね」
ディアナは顔を顰めた。それでも、アリアとカイネは引く様子はない。
「友人ですから、できる限りは支えてあげたいんです。なにせ、ここのところのイル様は見るに堪えませんから」
二人してディアナをじっと見ている。さすがにこれにディアナは耐えられなかったようだ。
「分かりました。できる限りの事はしてみましょう。イル様もお二人が居れば安心するでしょうし」
ディアナはため息を盛大についた。これを見たアリアとカイネはとても喜んだ。
「ですが、魔国の集まりまでの間、イル様には最低限のマナーを完璧に身に付けさせる事、これだけはお願いしますよ」
「分かりました」
ディアナが突き付けた条件に、二人は元気よく返事をする。
翌日、二人には魔国の集まりへの参加が許された事が伝わる。異例の事ではあるが、ティタンの親馬鹿が炸裂したようだった。
何にしても、二人はその日に向けて、イルに付きっきりになっていくのだった。
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