第三十三話

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第三十三話

 魔国の集まり。それは中央の魔国と周りの四属性の魔国の主要人物が一堂に会する、極めて重要な集会である。魔国の王子王女たちも十歳を迎えると顔見世をせねばならないという決まりがるために、社交界デビューの場という側面も持ち合わせているのだ。  イルは本来は去年にするべきだったところを、病気だとかごねて欠席したらしい。わがまま姫様である。今年はさすがに欠席するのはまずいだろうという事で、イルの参加は必須。だからディアナは必死になっていたのだ。 「分かって下さいますか、私の苦労を……」  と、アリアとカイネは説得の際に泣きつかれていた。他言はしない約束なので、アリアとカイネの胸の内にだけしまわれている。魔族も人間と同じように感じたり悩んだりするものなのだと、アリアたちは思い知らされた事案である。  本来、魔族たちの集まりなので人間が参加する事は許容されないし、命の危険だって十分あり得る話である。だが、アリアとカイネは参加を強く希望している。これにはティタンも相当に悩んだらしいが、結局のところは可愛い娘のためだと同席を許可した。ただ、二人は同盟国の王女であるので、しっかりとその身を守る事を約束した上でだ。  人間と魔族はとにかくお互いのイメージが良くない。昔からの積み重ねとはいえど、完全に凝り固まっている。長らく断交状態にあるため、イメージを覆す場がまったく無かったのだ。  今回のイルの召喚事件は、地の魔国とハサル王国との間に最終的に国交を生み出す結果とはなった。それでもやはり長年培われたイメージというものを払拭する事は容易ではなかった。人間は魔族を恐れているし、魔族は人間を見下している。いくら王族同士に親交ができたとはいえ、横たわる課題が多すぎるのが現状である。  しかし、数ある問題のうち、一番の問題はイルだった。娘可愛さに奔放でわがままな状態を放置してきたツケが、今まさに回ってきているのだ。  淑女教育を頑張れば、精神的にイルは簡単に参ってしまう。多くの魔界貴族の教育をこなしてきたディアナですら音を上げるくらいである。もう手の施しようがなかった。だからこそ、アリアとカイネという組んだばかりの同盟国の王女を同席させる事にしたのだ。年齢的にもイルに近いのも理由だった。  そうこうしているうちに、魔国の集まりが行われる日が近付いて来ている。もう出発しないと間に合わないとあり、ティタンは領主邸で部下を集めて、 「我らが居ない間、ちゃんとこの地を治めるのだぞ。この街一つ治められぬようでは、我の補佐は務まらぬからな。ましては我にとって変われると思うなよ?」  鋭い剣幕で檄を飛ばしていた。部下たちもティタンたちの留守をしっかり守るつもりで、気合いの入った返事をしていた。教育係のディアナも居残り組で、領主邸での仕事の他、街の子どもたちの面倒を見る事になっている。  そして、魔国の集まりへの出発の日を迎える。集まりが開催されるのは十日後。移動は七日もあれば十分らしい。 「ではディアナ、こちらは頼んだぞ」 「はい。王の信頼に応えてみせます」  さすがにイルの教育係を任されるだけあって、ディアナの地位は高い。それに、イルが制御不能なだけで、統率力自体は高いので責任者を任される事になったようだ。 「では、出発だ」  この声でティタン一行は魔国へ向けて出発する。その一行をディアナやイースンの街の人たちは、姿が見えなくなるまでずっと見送っていたのだった。
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