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第三十四話
一週間掛けて、ティタンたち地の魔国一行は、中心魔国の王都にたどり着いた。当然ながら街の中は魔族だらけ。それでも、街の賑わいを見る限りは人間と変わりない感じだった。
ここに来るまでの間も、実は時々騒動があった。それは入国、入都の際の事だ。人間であるアリアとカイネに対して、魔国の検問担当の兵士が当然のように因縁をつけてきたのである。人間と魔族の確執を象徴するような出来事である。
ところが、アリアとカイネの二人の決意は固く、ティタンとイルが凄んだ事で兵士たちは渋々二人の通行を認めたのである。イルは本気で怒っていたので、兵士があっさり引いてくれた事は幸運だったと言えよう。中央魔国にけんかを売るのはよろしくない。
それからも、アリアとカイネは注目の的だった。普通の人間が中央魔国で無事な姿で歩いている事は、とても考えられない事なのだ。しかも非武装だからなおの事である。
「凄く、見られてますね」
「そりゃそうよ。みんな人間を見る事なんてないんだから。魔国の中でも私の所くらいよ」
「そうだな。魔族からすると人間はごみのようなものだから、見るのも嫌だという奴が多い。だからなおの事見てくるのだろう」
確かに、興味津々な目と蔑むような目が入り混じっている。
「まぁ、二人に敵意が無い事と、俺たちが認めたという事を分からせれば、二人も大手を振って歩けるようになるだろう。とりあえずしばらくは我慢だ」
「はい」
ティタンが自信たっぷりに言えば、アリアとカイネはキリっとした表情で返事をする。
とりあえずは中央魔国の王に挨拶するのが先決なので、ティタンたちは魔馬車を城まで走らせる。
魔国とはいえ、その街並みは人間たちの国と大差はなかった。少々独特な家が建っているくらいである。地面は石畳できちんと平面に磨き上げられている。そのおかげで馬車はあまり揺れずに進んでいた。
この国の環境に、アリアとカイネは驚いていた。魔族など野蛮で後れた存在と教えられるからだ。それがどうだろう。むしろ逆に進んだ技術を持っている印象さえ受ける。
「驚いたか。魔族は人間に比べて魔力が高いし、意外と器用なんだ。これくらいなら序の口だからな?」
アリアたちの向かいに座るティタンはそのように言っている。アリアたちはこれ以上の物があるのかと、戦々恐々と身構えた。
そうこうしているうちに、魔馬車は中央魔国の王城へと到着する。その城の大きさはハサル王国のものと比べてもかなり大きい。見上げようとするなら首を痛めそうである。
「地の魔王ティタン、娘イル。それと私の客人であるハサル王国王女アリアとカイネだ。この二人に危険がない事は私が保証する」
城の衛兵にティタンが告げると、衛兵は中を確認する。そして、何やら妙な道具を取り出してアリアたちを確認している。その道具に警戒するアリアとカイネだが、
「心配するな。あれは敵意や暗器の有無を確認するだけの道具。君たちは普段通りしていれば何の問題もないから安心しろ」
ティタンがこう言って落ち着かせる。その言葉通り、衛兵の出した道具は何の反応も示さず、ティタンたちを乗せた魔馬車は無事にそのまま城の中へと入っていった。
「はぁぁ……、緊張しました」
珍しくカイネの方が発言する。
「あの衛兵も職務優先にして命拾いをしたな。二人はあくまでも私の客人だ。つまみ出そうとしたら穴だらけになっていただろう」
安心しているアリアとカイネが震え上がった。
「お父様、二人が震えているので物騒な事を言わないで下さい」
「ん、そうか。人間とはずいぶんと優しい連中だな」
イルが諫めると、ティタンはあまり表情を変えずにそうとだけ言うと、足を組んで馬車の外へ視線を投げた。そのティタンの様子に、イルはぷくっと頬を膨らませていた。
さて、こうしてイルたちは、無事に中央魔国の城に到着したのであった。
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