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第三十五話
ティタン一行は国賓としてちゃんと迎え入れられた。アリアとカイネの二人に関しても、はじめこそぎょっとした顔をされたものの。地の魔国の関係者という事で、普通の客人として対応されるようになった。人間に対する魔族の考え方がよく分かるというものだ。
ティタンは部下に命じて、極力二人が単独行動にならないように配慮をしておく。二人は若い上に一国の王女なのだ。何かが起きたら問題しかないのである。
さて、中央魔国にやって来たのだから、最初は中央魔王に拝謁するのが決まりである。ティタンも中央魔王であるルシフェルに会うために、城の中を歩いていく。どうやら他の魔国からもちょうど人が到着しているようなので、ルシフェルは謁見の間に居るようだった。
「地の魔国のティタン、ただ今到着した。ルシフェル様にお目に掛かりたく思う。拝謁する事は叶うか?」
謁見の間の扉の前に居る近衛兵に尋ねるティタン。すると、近衛兵はルシフェルに確認を取る。しばらくすると戻ってきた。
「地の魔王ティタンと同行者、ルシフェル様より入室の許可が出た。失礼の無いようにな」
近衛兵が扉を開け、左右に退く。
「感謝する。では、入るぞ」
ティタンはイルたち三人の王女を連れて、謁見の間へと足を踏み入れた。
謁見の間の玉座に、何やら威厳たっぷりな男性が座っている。頭には少し曲がった大きな角が生えていて、服装も黒や紫に金をあしらった豪華な意匠と、見るからに格式の高い人物だと窺い知れた。
そう、この男こそすべての魔国を統べる頂点の魔族であるルシフェルである。
「ティタンか、久しいな」
「ルシフェル様、去年の集会以来でございますな」
二人の王が言葉を交わす。これだけでもかなりの緊張が周りに伝わる。イルは鈍そうに周りを見回していたが、アリアとカイネの二人はその魔力の圧に体を震わせていた。
「さ、さすが、魔族の頂点と言われる魔王が二人もいらっしゃると、魔力に押し潰されそうです」
「さすがはイル様。この状況にもまったく動じていらっしゃりません」
アリアとカイネは必死に立っていた。
「そっちの二人は人間か。噂は聞いていたが、事実だったのか」
「あの二人はちょっとした成り行きで同盟を結んだ国の王女でございます。どうやら人間たちは現在飢饉に苦しんでいるようです。あの二人の国は援助する代わりに不可侵を結んだ次第でございます」
ティタンは、地の魔国に起きた出来事を伝える。何かと長い話だったが、ルシフェルは真剣にすべて聞いていた。アリアとカイネは緊張しているというのに、イルは自分の事だというのに興味がなさそうにあくびをしていた。
「なるほどな。そこの王女たちは、その同盟を結んだ事で関係者としてここに連れてきたというわけか。そういう事なら拒む理由はないな」
ルシフェルがアリアとカイネを見ると、二人は体を震え上がらせた。ルシフェルは地味にショックを受けた。
気を取り直してルシフェルはイルを見る。
「あれが君の娘か。この状況であの奔放っぷりか。くくっ、なかなかな大物だな」
「いや、実に釈明の余地もないです」
イルは落ち着きなく、あちこちをきょろきょろと見ているし、あくびも連発している。アリアとカイネが震える理由の一つともなっていた。
「去年、ここに連れてこなかった理由が分かるぞ。あれでは人前には出せんわな」
ルシフェルは苦笑いを続けている。
「あれでも、ディアナの教育に加えて、あの二人からも仕込まれているのですが、……いやはやお恥ずかしい限りです」
「ここは私しか居ない。不問にしておくから安心しろ。だが、集会ではきちんとするように伝えておけ。街ひとつを消し炭にされたくはないだろう?」
ティタンに目を向けた後、イルに視線を向けるルシフェル。その視線に、イルは一瞬ブルっと震えていた。顔をギリギリとルシフェルの方へ向けたイルは、恐怖に震えた表情をしていた。どうやらルシフェルの脅しは効果があったようだ。
「では、明日の集会を楽しみにしておるぞ」
「ははっ、ルシフェル様のご期待に副えるよう、よく言い聞かせておきます」
こう挨拶をして、ティタンたちはルシフェルとの拝謁を終えた。
「ふっ、今年の集会は面白くなりそうだな」
次の拝謁までの間のわずかな時間だったが、ルシフェルは不敵な笑みを浮かべるのだった。
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