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第三十七話
会合が始まるまでは、食事は魔国ごとに分かれており、到着日の食事は他の魔国の魔族とは顔を合わせる事はなかった。
魔国は全部で五つある。
火の魔国、水の魔国、地の魔国、風の魔国、そして中央魔国の五つだ。
ティタンとイルはその中の地の魔国の王と王女になる。アリアとカイネはその地の魔国の客人という扱い。人間ではあるが地の魔国の関係者として、この時ばかりは魔族同様の扱いを受ける配慮がなされている。
中央魔国の魔王はできる男であった。
この待遇の良さに、アリアとカイネはちょっと遠慮がちになっている。周りが魔族だらけで場違い感を抱いているのもあるが、なにぶん自国の状況がまだ良くないからだろう。
「自国民を憂うのもいいが、明日からはとにかくそれはいったん忘れてくれ。他の魔国の連中と会うんだからな。引け腰で対応すると舐められてしまうぞ」
ティタンからアドバイスされる。
確かに、会合の場では常に駆け引きがなされる。弱みを見せればそこを突かれ、相手に主導権を握られてしまうのだ。アリアとカイネはティタンの言葉に強く頷いた。
ただこうなると、問題はイルだろう。学も品もない王女ともなれば、それはそれで他の魔国に舐められる可能性がある。正直ティタンも頭が痛い問題なのだ。
アリアとカイネを連れてきたのもイルのためなのだが、イルは相変わらずマイペースである。さすがに中央魔国の魔王の前でのあの態度は、ティタンも肝を冷やした。「お前の娘は面白いな」と声を掛けられた時には、正直生きた心地がしなかった。ティタンの苦悩はまだ続きそうである。
とにかく、この会合だけでも何とか乗り切らねば。
そう悩んでいるうちに、翌日になってしまった。
年に一度ある、魔国の王族が集まって行われる会合。今更ながらに後には引けない。ティタンは覚悟を決めて、イルたちと一緒に会合へと赴いた。
会合の行われる広間には、すでに他の魔国の王族が集っていた。色や雰囲気でどの魔国の者か非常に分かりやすかった。
赤色中心の火の魔国。国王はヴァルカン、王妃フレア、子どもは双子の男女で兄ヒート、妹ハイア。ともにデビュタント済み。
青色中心の水の魔国。国王はリヴァイ、王妃サファ、子どもは長女スノー、長男コルド、次男ブルーで次男が今年デビュタントを迎える。
緑中心の風の魔国。国王はクロン、王妃ゼフィ、子どもは娘のシルフェのみでデビュタント済み。両親ともに奔放な割に、しっかり落ち着いた性格をしている。
灰色中心の中央魔国。国王はルシフェル、王妃ドーラ、長男アイロン、次男コクス、三男カーボで三男が今年デビュタントである。
そして、ティタンの治める地の魔国。系統は茶色でここだけ参加人員が特殊である。ティタンの妻ガイアは身重のため不参加。娘のイルは昨年のデビュタントを拒否した経歴がある。そして、魔族ではない人間のハサル王国の王女アリアとカイネが居るという構成だった。
この地の魔国の参加を見た他の魔国は、事前に知っていた中央魔国以外は当然ながらに驚いた。魔族ではない人間が参加しているのだから。当然の事ながら、声を荒げる魔族は出てくる。
「おい、なぜ人間が居る。これは魔族の集まりだぞ!」
「まったくですね。人間なんて汚らわしいもの、さっさと追い出して下さらない?」
怯えるアリアとカイネの前に、イルが立ちふさがる。
だが、この空気を変えたのは、他でもないルシフェルだった。
「黙るがよい。この私が参加を認めた。誰にも文句は言わせぬぞ」
場の空気が一気に変わった。さすがに魔族最強たる中央魔国の魔王にこう言われてしまえば、他の魔国の者は黙るしかなかった。
こうして、ピリピリした空気の中、参加者全員が席に着いての魔国会合が始まりを迎えたのだった。
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