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第三十九話
初日の午前中の会合が終わると、昼食会となる。すると、地の魔国のテーブルの近くに、風の魔国の面々が陣取ってきた。相当に興味を引かれたようである。
「ティタン殿は気になさるかも知れませんが、どうぞお構いなく。私としては人間を眺められるだけでも構いませんので」
ゼフィは真顔で言っていた。娘であるシルフェもアリアとカイネの二人に興味を示している模様。こうなっては断る方が野暮というものだろう。ティタンは仕方なくそれを了承した。
「ここはあくまで交渉の場だからな。ただ、この二人は娘と仲が良い。害を加えると判断したら、排除するからな?」
ただ、一応念押しはしておいた。風の魔国はなにぶん気ままな魔族が多いのだ。急に気を変えて反故にしてくる事もあるから、一応釘は刺しておかなければならない。それくらいに油断ならない相手なのである。
「あらあら、怖いわねぇ」
ゼフィは扇子で口元を隠しながら、体を背けた。相変わらず読めない相手である。
「人間たちの住む街をいうのに興味があります。会合が終わった後にでも、ぜひとも一度見てみたいものですね」
シルフェの方も興味はありそうだった。
「申し訳ございません。今、私たちの国は何百年に一度という寒波に見舞われておりまして、ティタン様、イル様の協力の下で立て直している最中なのです」
「とてもお見せできるものではございませんので、どうかご容赦下さい」
アリアとカイネが、シルフェに対して頭を下げていた。
「それは大変ですね」
シルフェは心配そうな表情を二人に向けた。アリアとカイネは頭を下げたままである。
「その状況で、王女二人がこちらへ来るとは。一体何を考えているのだ?」
ここまで黙っていたクロンは、厳しい言葉を浴びせる。その言葉にアリアとカイネは反論できず、ただただ下を向いていた。
「まぁそう言ってやるな。この二人は、私が無理言って連れて来たんだからな。代わりに俺の部下を遣わせてある。まともな頭を使えないくらいに追い詰められていたからな、あの国は」
ティタンは庇うと見せかけて追い打ちをかけた。実際、食べ物がなくなって来た時点で、食料となる魔物を召喚して食い扶持を得ようとしていたのだから。明らかな愚行である。
「お父様、さすがに事実とはいえ、ちょっと言い回しには気を付けて下さい」
黙っていたイルが、ティタンに対して怒っていた。さすがに友人二人を侮辱されては、相手が父親だろうと関係なかったようである。
「あらあら、娘に嫌われてしまいましたわね」
それを見ていたゼフィは不敵に笑う。風と地は元々そんなに相性が良くない属性であるせいか、その属性を持つ魔族同士もそれほど相性はよろしくない傾向にある。ちなみに、ティタンとクロンはそう仲が悪くないのだが、ゼフィとの仲はご覧の通りである。ちなみに妻同士の仲はいいという。
親同士がいがみ合う中、シルフェはイルたちに近付いていた。
「ねえ、イルさんと申しましたかしら、人間の街の話を聞かせて下さいませんか?」
シルフェの人間の街への関心は本物のようで、イルが人間と友人という事は、人間の街に行った事があると見て声を掛けてきたのである。
「んー、あまりいい話はできないと思うわよ。人間の街って今、食糧難みたいだから」
イルはまったく隠す気はないようである。
「へぇ、人間って大変なんですね」
「そりゃ、作物は枯れて実らないから、食べ物無くなっちゃうんですもの。そうなったら私たち魔族だって、生きていけるかどうか分からないわ」
「お、お恥ずかしい限りです」
シルフェとイルの会話を聞いていたアリアとカイネは、すっかり縮こまっていた。
「ごめんなさいね。そんなつもりじゃなかったのよ」
シルフェは、謝ってきた。噂通り、奔放な風の魔族とは一線を画した王女のようである。
「お父様、お母様。後で、私たちだけで話をしてもよろしいかしら」
「お前の好きなようにしなさい」
「ええ、構いませんわよ。私たちは私たちで話がありますから」
シルフェが許可を求めると、両親はあっさり許していた。
というわけで、王女たちだけでの会談の場が、この後持たれる事になったのだった。
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