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第四話
少女は二人の王女に連れられて、彼女たちの部屋へとやって来た。
そこで少女は、王女たちから召喚の儀式が行われた経緯を聞かされた。
正直言って、呆れ返った。
「馬鹿な事だとは存じております。しかし、それくらいに我が国は疲弊し切っているのです」
アリアが少女に対して、深々と頭を下げた。謝罪の言葉を含んでいないが、愚行に巻き込んでしまった事への謝罪ゆえの行動である。
「で、私は元の場所に戻れるのかしら」
「申し訳ございません。……結論から言うと無理なのです」
少女は開いた口が塞がらなかった。一方通行の召喚とは、本当に無責任過ぎる。
しかし、その一方で少女は別の期待を持った。
「戻れないなら戻れないで仕方ないけど……」
「けど?」
「それだったら、この国を見せてもらえないかしら。私は地属性の魔法に長けているから、手伝える事はあると思うのよ。帰れないなら、私もこの国の一員にならなきゃいけないわけでしょ?」
少女の言い分に、二人の王女は目をぱちぱちさせた。
「お手伝いして頂けるのでしたら、大歓迎でございます」
「現在は飢饉の中ですので、藁にもすがる思いなのです」
そう言って、二人の王女は、少女の手を取った。
「あの、あなたのお名前は、何と言うのでしょうか?」
アリアが尋ねれば、少女は驚いていた。そういえば、まだ名前を名乗っていないのだ。名乗る必要も感じなかったから、そこは仕方ないだろう。
しかし、手伝うと言ってしまったので、少女は仕方ないなという感じにため息をついた。そして、
「私の名前はイル。いつまでになるか分からないけど、厄介になるわ」
「イル様、ありがとうございます」
少女は名を名乗り、アリアとカイネの二人は涙を流して、イルの手を取った。
イルは少し照れ臭そうにした後に、王女の部屋から外を見てこう言った。
「早速だけど、少し土地を見せてもらえないかな?」
「はい、仰せのままに」
二人は快く受け入れ、イルを王城近くの農耕地へと案内する。
そこでイルが見たものは、寒さにやられた農作物だった。暖かさが足りずに立ち枯れてしまっている。
そう、イルはあまり感じていなかったが、今年は気温が低いのである。これでは、魔法で育成を促進したとしても同じ状況になってしまう。想像したよりも悪い状況だったのだ。
それでもイルは考えた。
そして、考える動作をやめたかと思うと、手を前にかざして魔法を発動する。独学で身につけた建築魔法だ。土に自分の魔力を混ぜて家を作る。そうして、あっという間に畑を直方体の土が覆ってしまった。
だが、これでは不十分。植物には日光が必要だが、寒さは要らない。光を通し、空気を遮断させるべく、天井の材質を透明に変化させていく。水は魔法使いにでも使わせれば十分なので、隙間は作らない。こうして出来上がったのは、室内を一定の温度に保てる保温室だった。
「すごい……」
二人の王女はただ呆然としていた。周りの作業員たちもそうだ。
「私の出身は似たような環境です。ただ、土地はこれほどまでに痩せていないので何とかなったけど、寒さから植物を守るためにこうした囲いを作っていたのよ」
イルは先祖の知恵と言っている。しかし、どう見ても自分が少女であって、これ程までの建物を一瞬で建ててしまう事に驚かれているとは、イルはまったく思ってないようだ。
「それで、これからどうするおつもりですか?」
カイネが正直な疑問をぶつけてくる。これに対して、イルは笑っている。
「私が独学で身に付けてきた知識を、ここで実践するのよ」
我に勝算あり。
イルの表情は、自信に満ち溢れていた。
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