悲しみについて

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悲しみについて

 俺は全てが悲しいのだ  道端に落ちている枯れ葉を見て、 その行く末を考えてしまって悲しい  太陽の光に圧倒され、 ただの色に成り下がった信号機の灯りを見て、 世の理を感じてしまって悲しい  俺は全てが悲しいのだ  あまりにも単純に作られたベンチの、 不器用な愛され方を思って悲しい  ただ青い空にぽつんと残された雲の、 行き場のない孤独を思って悲しい  俺は全てが悲しいのだ  もういなくなった恋人の、 俺の存在しない時間に起こった全て  些末な出来事の、 発端を俺としないその理由  俺に話しかける誰かの、 遥か彼方にある何かを見据える遠い目  そんなものを考えた時、 どうしたって思い至る俺の危うさや儚さは、 重力に抗うように伸びる影や 少年によって蹴り上げられたあの球体のよう  独立した個である俺を思って、 俺はただ悲しいのだ  自由を願うのに、その虚無を流れる魂の なんと悲しいことか  俺は全てが悲しいのだ  ただひとつ、悲しくないことは  俺を象徴するこの悲しさ  俺は全てが悲しくて、 そんなもののために俺は悲しくはなれない  今はただ 頬を流れるこの涙の冷たさだけが、 俺は悲しい
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