恋人

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 虚構の渦の中で漂って 君の輪郭を失ってしまいそうだ  粘度の高い液体みたいに 僕の薄汚い手を撫でて誘う君の表情も 今はもう昔のことらしい  過去形で綴った世界の半分だけが あの時のドーナツみたいに 冷め切ったコーヒーと並んでいる  君のくれたものの半分だって 僕の肉体には残っちゃいないんだ  君のくれたものの半分だって 僕の思想には残っちゃいないんだ    街頭が照らす公園の脇 あのベンチでふたりで吸った煙草の味や  腐って死んだ自動販売機を見て泣いた僕と そんな化け物を笑いながら抱きしめてくれた君のあの体温や  夢と現実のちょうど中間くらいの温度の部屋 あの場所で知った君の肌と肉の味  そんな君の半分にも満たない貯金を 貧乏人みたいにちまちまと切り崩して そんな風にして僕は生活している もう底をついてしまったけれど  気が付いたら君は そんな虚構の中でどろどろに溶け出して  じゃあもうこれは君じゃないんだよな 僕ですら僕じゃないんだよな  過去に縋った化け物はついに 自動販売機なんかじゃ泣けなくなって 今じゃ鏡を見て泣いてるんだ  安くて卑屈で下品なこの魂が本質だよ 君がいつか褒めてくれた僕のね  言い訳じみた自虐は冷めたコーヒーに溶けていって その黒い液体に映った僕のその姿だけが 現在進行形 現在進行形
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