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0-1 北東の果より
目が覚めたら、そこは真っ暗な洞窟だった。どうしてここにいるのか、自分が誰なのかも全く分からない。ボクの名前は……やっぱり思い出せない。
記憶喪失というやつだろうか。それにしてはやけに自己分析が出来ているから、きっとボクは元々そういう奴だったんだろう。なかなか助かった。
どういったことを思い出せるのか、色々と考えてみた。言葉の意味とか、概念とか、そういったものは思い出せる。一般的なモノの名前なども思い出せる。これを「意味記憶」と言うことも知っている。
ただ、出来事とか、固有名詞とか、そういったものを思い出すことは全くできない。とにかく、赤ちゃんに戻るようなのじゃなくてよかった。
「ふぅ……とりあえず、明かりがほしいな」
一番助かったのは、色々な魔法を覚えていたこと。とりあえず、明かりがあれば洞窟は出られるし、危険があっても戦いに使える魔法もたくさん覚えている。
明かりを灯して、まず自分の身の回りを確かめる。暗い場所なので確信が持ちづらかったが、黒い女ものの服を着ているようだ。装飾が多い。これ自体は別に悪いとは思わなかったし、自分が女であるらしいことから、問題はない。
ただ、一つ気になることがあった。どう考えても服の装飾の一部とは思えないものが、首にかけられている。
これまた真っ黒なので、すぐに何かは分からなかったが、これは何かの鍵……だろうか。当然ながら、何の鍵なのかはまったく見当がつかない。
どうしてこんな状態でいたのか、ここはどこなのか、そもそも出られるのか。何もわからないまま、洞窟の中を行くことにした。
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