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そして見つけると、弁当を一つタダで渡す。毎日一個ずつ。
メグはこのあたりに住んでいて、廃棄場から拾われてきたいろいろなものを、きれいに洗う仕事をしていた。
廃棄場は都市の東の外れにある、野ざらしのゴミ山だ。洗いあがったものは、母親が市場まで持っていって中古品として売る。
そういう話は、何度か会ううちにわかったことだ。
「あなたは、どこの団体から来てる人?」
メグのほうからそう聞かれて、ドンは言いよどんだ。今さらほんとのことを言うのも、恩着せがましくて、わずらわしい感じがした。
「えっ……と、大学から来てる」よくわからないのでそう答えた。
「そういうのって、フィールドワークいっていうんでしょっ?」 メグは知ってることを得意そうに小鼻を膨らませた。
「……そうそう。レポート書くために必要なんだよ。卒業論文の」
「どんな論文なの?」
ドンは大学なんて行ったことはない。困って目を宙に泳がせ、すさんだ街のありさまをなんとなく見わたした。
路地にそって手掘りされたむき出しの側溝に、排水がたれ流しになり、さらにゴミがそれを覆っている。潰れかかったマッチ箱のようなバラックがひしめきあい、もつれた紐のような違法な電線がそれらを繋いでいた。
「もっと住みやすい街づくりについて……とか」
「すごい!」
メグはパッと顔を輝かせた。
ドンはありもしないことでほめられて、きまりが悪くなった。でも、あまりに素直に反応するので、本当に自分がすごい人間になったような気分になったのだ。まるで羽毛でなでられているような気分だ。
そうして、ドンは辻褄をあわせようとするうちに、ペラペラと嘘をかさねた。
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