ユートピア

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ドンは土手の上を悠々と歩いた。 姿が見えなくても、電話越しに話すみたいに、相手がどんな態度で話しているのかは伝わってしまうものだ。 緑にふちどられた澄んだ川岸で、爽快な空気を深呼吸し、大きく伸びをする──ような演技をするうちに、自分もその気になっていく。 「あっ! あそこに花が咲いてる。ハイビスカスみたいな、花びらが白くて真ん中が少し赤いやつ。すごく綺麗だ」 ゴミの散乱した河川敷(かせんじき)に、くたびれた花をかろうじて咲かせた茂みがあった。よどみにネズミの死骸が流れていく。夏草のあいだを飛びかうのは、蝶ではなく、コバエだ。 ドンはそれは無視した。 メグは穏やかにまぶたを閉じたまま、満足そうに、にっこりした。 まるで、カボチャを馬車に変え、ネズミを馬に変える、シンデレラの魔法使いだ。 なんという天真爛漫(てんしんらんまん)さだろう! あんなゴミ溜めにいながら、あの子はそれに気づいてないなんて!
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