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また、あるときは、どこにでも売ってる駄菓子のアイスを買っていって、今新市街で流行ってる、高級専門店のアイスだと言い張った。
ほんとうは本物を買ってやりたい。でも、いまだに両親から小遣いという形でしか給料をもらってないので、金がないのだ──いや、でもアイスくらいなら買えたかもしれないが。
ドンは新市街に行くのが苦手なのだ。
いつだったか、すりきれたサンダルと色あせたTシャツ姿で、セントラル・シティの、きらびやかなショッピングモールに、ふらりと入ってしまったことがある。
そこはまるで熱帯のバラックのただ中に、突然あらわれたアラビアの城のようだった。ガラスのピラミッドの中を、気どった熱帯魚のような男女が歩きまわっている。
その中で、ドンは泥くさいドジョウだった。
ショーウィンドウの飾りに見とれていると、店員が、冷やかしは帰れという眼つきでこっちを見ているような気がしてならない。
その時のことを思い出すと、ドンは、たまらなくなる。
本当はリゾート島のビーチにも連れていってやりたい。
観光客だらけのテラス席で、ウェイターが聞いてくる。
「デザートは何にしましょうか?」
「今日は彼女の誕生日だから、アイスに花火を立ててよ。デザートにあうシャンペンも持ってきて」
花火がどんな色をしているか教えてあげよう。
海がどんな風にきらめいているか教えてあげよう。
君はそれよりも素敵だって教えてあげよう。
ドンはほほ笑んだ。
すべてはドンの夢、妄想だった。
ドンは惣菜の仕込み中に、そんなことを考えながら、さといもの皮をむいていたので、危うく手をすべらして指を切りそうになった。
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