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リビングでスマホを見ながら内心はアキ君を待ち構えていた。
スマホを絶えずいじりながら、その画面は殆ど見えていなかった。
しばらくして不自然なほど静かに、アキ君がリビングに来た。
「ふうちゃん…。」
返事なんかしてやらない。
知らん顔してスマホを見続ける。
なんて言うつもりだろうか。
なんて言ってやろうか。
するとアキ君はソファーに座っている私の前に跪いた。嫌でもアキ君が視界に入ってしまう。
恐る恐る私を見上げるアキ君の表情は成人男性と思えないほど怯えている。
そして…かわいい!
ずるいよ!もーやだ。笑っちゃいそう。
思わず横を向く。
でもそれはアキ君からすれば、まるで拒絶されたかのように見えたと思う。
「ふうちゃん、勝手してごめんね。ちゃんと話したかったけどふうちゃん忙しそうだったから。でも…すごくいい家なんだよ。ふうちゃんも絶対気にいるって確信したから買ったんだ。」
ゆっくり、一生懸命話すアキ君。
まだ髪が濡れていて時々雫が落ちるから泣いてるみたいに見える。
どうしようかな…。そろそろ許してあげる?まだ早い?
「ふうちゃん…。」
両手を私の膝に置いたアキ君。
横目で見るとしょんぼりした顔だけじゃなく、しなだれたしっぽまで見えてきそう。完全に反省するワンコそのものだ。
手を置かれた膝がじんわり暖かい。
少しかわいそうになる。だって本音ではとっくに許しているし、もうこの濡れた頭を今すぐ抱きしめたい。
でも私は天邪鬼なの。
それに妻に内緒で家を買ってすぐに許される夫なんてこの世にいるの?
もう少し、怒っていなければいけない気がして、でももう許したくてどうすればいいか迷っていた。
すると、アキ君が口を開いた。
「もし、ふうちゃんが気に入らなければ買うのはやめるよ?」
「え?」
思わずアキ君の方を向くと、捨てられた子犬のような目がこちらを見ていた。
「でももう、手付金払っちゃたんだけど…。」
いくらか聞くのはやめた。
買うのやめるなんて言っているけど本当は簡単にやめられないんでしょ。ずるいワンコだ。
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