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田舎移住計画
「ふうちゃん…僕、田舎暮らししたいんだ!」
「…は?」
シートパックを顔に貼り付け、1日の疲れを癒やしていた私に夫のアキ君は言った。
とても真剣な表情。アキ君がここ数日考え込んで、心ここに在らずな感じだとは気づいていた。
でも今じゃなくない?
こんなド平日の夜言う?
明日も仕事なのに…。
疲れがさらに増した気がした。
在宅で作家の仕事しているアキ君には平日も週末もないんだよね。
そうして今更ながら、テレビで流れてる里山やら田園やらの風景映像に気づく。
そういえばさっき、アキ君が「こういう暮らしどう思う?」って聞いてきて「いーかもね。」ってスマホ画面から目を離さず答えてしまったことも思い出した。
アキ君的にはベストなタイミングを仕立て上げたつもりなんだろうな。
真っ直ぐでピュアで単純でいつもどこか残念な私の愛しい旦那様、アキ君。
私を見つめるキラキラした瞳は今年30歳を迎えるとは思えないほど濁りがなくて純粋な少年そのもの。
アキ君は年に数回、こういう少年漫画の主人公みたいな感じになる。
突然「僕、寿司職人になる。」とか言ってみたり、「インドへヨガの修行に行きたい。」とか言ってみたり。そのうち「海賊王に俺はなる!」とか言い出すかもなぁなんて思えるくらいに、私はこの“主人公モード”の扱いに慣れていた。
主人公モードを解除するため私はアキ君にこんこんと言って聞かせる。
いかに非現実的か。不可能ではなくても、絶対に苦労するのに耐えられるのかと。そして…妻である私のことも考えてと。
「でも、だけど…、」と初めはなかなか納得しないアキ君も時間が経つとこの主人公モードがだんだん弱くなり、いつのまにか言ってたことすら忘れてしまうのだ。
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