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今回もそれの一環だと思った。
だからとりあえず「そうなんだ。」とだけ答えた。
したら
「今回は本気だから。ふうちゃんも考えておいて。」
キリッとした顔で言い残すと先に寝室へ入って行った。
今回は本気だから…は毎回言ってるよね?
でもさ、都会育ちのアキ君に田舎暮らしなんてできるわけないじゃん。
アキ君は高級住宅街と呼ばれるところに実家のある良家の一人息子だ。しかも心霊番組やホラー映画も絶対見られないくらい怖がりなのに。
田舎の夜がどれだけ暗いかわかってないよね?
私の地元は山奥や過疎地ってほどではないけどまぁまぁの田舎だから、田舎暮らしの大変さは私の方がわかってると思う。
車は必須だし、人付き合いだって密だし、仕事だってあるかどうか…。
仕事…。
仕事のことは私にとっては一言では語れない。
デザイン系の専門学校で知り合った私達夫婦。
アキ君、白川映君と私は同い年で学校に入ってすぐに付き合い出した。
「藤子って絶対に呼ばないで。私自分の名前嫌いなの。」
そう言った私にアキ君は
「え、じゃあ…ふ…ふ…ふ…
ふうちゃん!僕、ふうちゃんって呼ぶね!」
名前で呼ばないでと言うと自然と苗字で呼ばれることが多くて“ふうちゃん”なんて呼ばれて面食らった。
アキ君の屈託のない笑顔についそのあだ名を許してしまった。
アイドルみたいな容姿なのに人懐こくて、嬉しそうに駆け寄ってくる姿が仔犬みたいなアキ君。
「僕、ふうちゃんほど綺麗な女の人見たことないよ!」
…こんな、頼むから人前では言わないでよ。みたいな恥ずかしいことも平気で言ってのけるアキ君から告白されて付き合うことになった。
「私はアキ君レベルのイケメンなら何人か知ってるよ。」
…こんなことしか言えないへそ曲がりな私と素直すぎるアキ君が別れることなく、結婚まで漕ぎ着けたのは奇跡なのかもしれない。
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