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その電話は突然だった。
アキ君の田舎暮らし宣言の数日後の夜、
お風呂に入っていたアキ君のスマホが鳴った。画面には「パーフェクト不動産」の文字。
不動産ってどういうこと?
人のスマホだとか考えもせず気づいたら電話に出ていた。
「はい。」
すると若い男性の早口で喋る声が聞こえた。
「あ、白川様の奥様でいらっしゃいますか?どーもぉ!ワタクシ、パーフェクト不動産の小滝です。先日ご契約いただいた、〇〇県の古民家住宅の件でお電話させていただいたんですが…ご主人様は今ご都合が悪い…」
「いえ、夫にかわります。」
ん?今、古民家って、ご契約って言った?
頭の中で警報が響いていた。なにか、なにかが起こっているぞと。
アキ君のスマホを握りしめたまま、脱衣室まで行った。シャワーの音が聞こえていたけど構わず浴室のドアを開けた。
「ひゃあ!」
シャンプーの最中だったらしいアキ君は泡だらけの頭のまま驚いて振り返った。
「パーフェクト不動産の小滝さん」
私は冷静にスマホを差し出した。
「あわわ…」
泡わなのはあなたの頭。
というか、焦ってあわわって、実際に言う人いるのね。
全裸で泡だらけの頭で電話を受け取ったアキ君はなんとか声だけの体裁を整えて通話していた。
そんなアキ君を浴室に残し、私はリビングへ戻った。
さて、アキ君はなんて言い訳するのだろう。
少年漫画主人公モードのまま、まさか家の契約までしてしまうなんて予想していなかった。
でもこうなってしまったなら田舎暮らしもいいかなと思った私は変わっているのかもしれない。
家の契約をなんの相談もなく決められたのは悲しいけど。
だって家って生活の中心じゃない。ライフスタイル、仕事…。
私の人生はアキ君と一緒いると合意して結婚した訳だけど、アキ君に完全に合わせるって意味じゃないよね?それなのに、家を、住む場所を勝手に決めたって私の人生を蔑ろにされたのたのと同じに思える。
でもアキ君のことだからそこまで深く考えていなかったんだろうな。
アキ君が真剣に考えてのことなら反対する気はなかった。ただ、決めてしまう前に私に説明して、私を説得して欲しかった。
アキ君…。
いつの間に見に行ったんだろう。私が仕事に行ってる時間?◯◯県までは電車に乗って2時間くらいかな?
きっと主人公さながら、目をキラキラさせていたんだろうな…。
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