ある意味、初めての夜

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 だが、いきなり、姉のことには触れられなかった。  あのとき、にこ、と笑って、 「やだな、課長。  私は一人っ子ですよ」 と言ったときの和香は、明らかになにかを誤魔化している感じがしたからだ。  まず、さりげなく違う話をして、と思ったが、特にこれといって、思い浮かばない。  困ったな、と思ったそのとき、ふと、深夜の街を疾走する和香の姿が脳裏をよぎった。 「そういえば、お前、足速いな」 「ありがとうございます。  そういえば、昔、陸上やってたころ――」 と語り出すので、 「陸上の選手だったのか?」 と訊くと、 「いや~、そんなにやってたって程でもないんですけど。  そういえば、私、子どものころ、スプリンクラーって陸上やる人のことだと思ってたんですよね」 「スプリンターだろ……」 とまた、どうでもいい話がはじまる。  というか、こいつの話の中でどうでもいい話じゃない部分は何処だ、と思いながら、耀は、さりげなく姉の話に移行しようとした。
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