ある意味、初めての夜

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「……本好きの若い男が住んでたんじゃいけないのか」 と文句を言うと、 「課長、本、お好きなんですか?」 と和香は疑わしげに訊いてくる。 「そりゃ、今は時間がないから、そんなに読まないが。  学生時代は結構読んでたぞ。  っていうか、図書館前の家に住むのが理想なら、俺とあの家に住めばいいじゃないか」  なんとなくそう言ってしまった。 「いえいえ。  ですから、私は別にあの晩、課長となにかあったわけではありませんので。  責任とっていただかなくて結構です」  じゃあ、今から、なにかあったら一緒に住むのか?  ……と思ったのだが、言えなかった。  近すぎるのも問題で。  それ以上語らう暇もなく、図書館の前庭に着いていた。  振り返った和香は、下の道を見下ろし、大きく伸びをする。 「やっぱ、近いですね。  いいなあ、あのおうち」 と和香は我が家を見ながら、うらやましがってた。
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