ある意味、初めての夜

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「いいなあ、こういうおうちに住んでみたいです」  だから、住めよ。 「あ、和室もある」 と襖を開けてみながら和香が言う。 「っていうか、『おうち、見せてください』『はい、どうぞ』ってすぐに見せられるのがすごいですね。  私なら狭いアパートでも、『ちょっと二、三日待ってくださいっ』て言わないと、人、入れられないです」 「外で待たせるのか、二、三日」 と言うと、和香が笑う。  ……なんとなく俺、待ちそうだな、外で二、三日。  まだそこまで寒くはないのに。  何故か雪が降りしきる中、凍えて和香のアパートの下に立っている自分の幻が見えた。  隣には雪だるま。  そこに、写真でしか見たことのない羽積が全身黒っぽい服で現れ、無言であったかい缶コーヒーを差し入れてくれる。
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