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美月は窓から下をのぞいた。
長いくせ毛を束ねた澱んだ目の男が、黒いハンカチで額の汗をぬぐっている。
「あ、そうだ。こちらはパワーソープと言いまして、牛乳の匂いがするとても洗いあがりのよい石けんです。これで体や髪を洗うと、運気が倍増いたします。今回はとくべつに三個セットでお渡ししますよ」
「あら、ええ? でも……」
「奥さん、お悩みありますでしょう?」
男は、車庫にとまった旧式のうす汚れたセダンを見やった。美月から母の姿は見えなかったが、母のため息だけが何度も聞こえる。
「ほんとうに運気があがるんでしょうか」
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