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 今年で三十四になる美月を、まだ子ども扱いする母にむっとしていたら、話題はもう近所の豆腐屋の話になっていた。 「それでね、おじいさん、最近お豆腐づくりの合間に太極拳をはじめたんだって。ほら、お豆腐やさん早起きだから。『太極拳豆腐』って商品つくったらいいのにね。太極拳しながらつくったお豆腐なんて健康になれそうよねえ。はあーって、なんかの気が入ってて。何の気かわかんないけど、お母さん二個買っちゃう。あ、そういえばこの前、そのお豆腐を食べてたらね、お父さんが突然口をもごもごしだしたの。誤嚥かと思って駆けつけたら、手のひらにぽろって。口から吐きだしたもの、何だったと思う? 魚の骨じゃないのよ。なんと、奥歯! 奥歯がぽろっと、とれちゃったの。もうびっくり。その歯が茶色くて、汚くてねえ。でもお父さんけろっとして、ずっと痛かったからやったーって、子どもが乳歯抜けたみたいに喜んでるのよ。みいちゃんは歯が抜けるといつも泣いていたわね。この話まだ続きがあってね」  すでに長いのにまだ続くのか。  美月はスピーカーに切りかえ、朝食の準備をはじめた。母がこんなに話すということは、きっと父は不在で、有樹は調子がよくないのだろう。 「ねえ、みいちゃん聞いてる?」
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