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 母がか細い声で訊くと、男はぎらりと目を光らせた。 「もちろんです、奥さん。ああ、私の話などよりも皆さまの体験談がよいですね」  黒光りした鞄から手際よくA4の冊子を取りだすと、読みあげはじめた。パチンコ通いの夫が改心してくれた。姑とのひどい関係が改善した。子どもの病気が治った。  そのとき父は一週間家に帰ってきていなかったし、弟の有樹は今年度が始まって以降、部屋から出てこなくなった。  初夏だというのに、流れる汗がとまらない。あの男はあきらかに変だ。なのにお母さん、なんで話を聞いているんだろ。はやく断ったらいいのに。  美月は祈るように目を閉じる。  そもそもわが家にそんなものを買う余裕などない。 「おいくらなんですか」    母の声がした。
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