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たくさんの人々が、ヒーローの門出を見守っている。今の技術なら出発の際に垂直でロケットを発射する必要もないため、室内の搭乗員に大きな負荷がかかることもない。僕達は椅子に座ってちょっとしたベルトを締めるだけで良かった。
分厚い窓の向こうに見える、多くの人々の姿。もう後戻りできない――わかっているのに、僕は思わず呟いてしまっていた。
「何で僕なんだろう」
「おい、波川」
「ごめん、わかってるんだ。今になってみんなのモチベくじくようなこと言っちゃいけないって。でも、どうしても思っちゃうんだ。僕よりこの席に座っているのに相応しいん人が、きっと他にはいたんじゃないかって。だって……」
ぎゅっと唇を噛み締める。
「置いていくんじゃないか、あの人たちを」
いや、正確には。
「僕達百人は、彼等を見捨てていくんじゃないか……!」
言ってはいけない言葉だとわかっていた。それでも言わざるをえなかった。
最初はわくわくしていたこの旅の、本当の目的。過剰なほどの食糧に燃料、あらゆるエキスパートの搭乗。まるで、宇宙船の百人でひとつの国でも作ろうとするかのよう。
当然だ。
このメンバーは、選ばれた――地球からの脱出民。自分達だけが知っているのである。もうすぐ地球が地殻変動と異常気象で滅ぶということを。僕が幼い頃に日本で経験した謎のマグマ噴出はその前兆であったことを。
冬の東京でも、気温三十度が当たり前になってしまった世界。その暑さが単なる温暖化ではなく、急激に高くなった地熱の影響もあるとわかった時――人々は、この星の終わりを察したのだった。
もうすぐこの惑星は火に包まれて消える。
もはや何もできることがないと知った人類は、終わりを知らない多くの人間達を残し、偽り――選ばれた人間だけ乗せて宇宙に逃げのびる選択をしたのだ。
――何で僕が選ばれたんだろう!家族もいない、悲しむ人なんて誰もいない僕が……!
いや、ひょっとしたら置いていく家族がいないからこそ、未練がないと判断されたのかもしれない。いずれにせよ、確かなことは一つ。
「そんなこと、みんなわかってるんだよ。でももう、俺達には他にどうすることもできないんだ」
同じく家族がいない谷田が、悲しそうな目で僕を見つめた。
「受け入れろ、これが運命なんだって」
「……勝手な言葉だ、運命なんて」
「そうだな。でも他に何と言える?」
「…………」
僕達が地球から離れた理由。それは、己が生き延びるため。
そこまで惑星をボロボロにしてしまったのも、僕達自身の業だったというのに。
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