英雄はいなかった。

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「月刊スペースジャーナルの松下です。日本人を代表してこのプロジェクトに参加することになった、波川映二(なみかわえいじ)さんにお話をうかがいたいのですが、よろしいでしょうか?波川さん、プロジェクトに選ばれた時どのように思われましたか?」 「へっ!?」  波川映二は僕の名前だ。僕は冷や汗だらだらになった。明らかにガチガチに緊張しているのに、何で僕に火を向けてくるのだろう。日本人のメンバーならこの場に僕以外だっているのに。  ニックが明らかにハラハラした目で僕を見ている。そんな困った顔するくらいならコミュ障な僕を助けてくれ!と心の底から思う。 「あー、すみません松下さん!こいつ超アガリ症なんです!」  天からの救い。隣に立っていた谷田が、笑顔でフォローを入れてくれた。僕の肩に腕を回すと、“お姉さんが綺麗だから余計に緊張しちゃってんだよね!”と同意を求めてくる。僕は頬を熱くさせながら、かくかくと頷く他ない。 「そ、その、あの、えっと……」 「ほいほい、無理すんな波川。えっと、質問はプロジェクトに選ばれた感想だっけ?自衛隊にいた筋肉馬鹿の自分がなんで選ばれたのかわかんない、もっと相応しい人は他にもいるのに!って思ってたんだってな?」 「う、うん。その通り、です」 「とっても謙虚でいらっしゃるんですね。ありがとうございます!」 「あ、ありがとう、ゴザイマス……」  有りがたかったのは、その女性記者が空気が読める人だったということだ。瞬時に、谷田の方が遥かにインタビュー慣れしていること、僕が大袈裟ではなく本当に倒れそうになっていることを見抜いたのだろう。 「では、谷田さんに質問なのですが、よろしいでしょうか?」 「いいですよ!あ、でも恋愛関係にツッコむのは無しでお願いします。天国に行った愛猫が嫉妬しちゃうんで!」  上手に会場の笑いを誘うのも忘れない。  人間として人気があるのも魅力的なのも、圧倒的にこいつの方なんだろうなあ――と僕は小さくため息をついた。
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