英雄はいなかった。

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英雄はいなかった。

「おめでとうございます!」  カメラのフラッシュ、フラッシュ、フラッシュ。  眩しい光の中、僕はやや緊張してピンと背筋を伸ばしたのだった。正直この状況で、笑顔を作るのはかなり厳しい。いかんせん僕ときたら、体が頑丈で体力があることだけが取り柄なのである。人前でこんな風に注目されたこともなければ、賞賛されたこともない。緊張するなというのがまず無理な相談だった。 「落ち着けよ、顔怖いぞ」  横から同僚の谷田(たにた)がこんこんと僕を肘でつついてきた。 「大丈夫だって、俺達みたいな下っ端にはそんな質問とか来ないから。リラックスリラックス」 「ぼ、僕をお前みたいな陽キャと一緒にするなよ。緊張で漏らしそうなくらいなんだぞ」 「三回もトイレ行っただろ、大丈夫だって」 「でもぉ……!」  流石にカメラの前で堂々と駄弁るわけにもいかない。あくまで会話は小声で、だ。  ちらりと見上げた先には、“祝・宇宙開発プロジェクト長距離遠征メンバー決定!”の横断幕が躍っている。ついにこの日が来てしまったのだ、と思うと心臓の奥が冷たくなった。  そう、この記者会見は、世界の主要国家が共同で進めてきた超ビッグプロジェクト、その参加者がついに決定したというお披露目式なのだ。  環境悪化が続くこの地球の外に、人類が住むことができる新天地があるかもしれない。もしくは、現在の燃料に代わる自然環境に優しい燃料やエネルギーが見つかるかもしれない。それを探すため、人類発の超大型宇宙船を複数の国家が共同で制作し、選ばれた宇宙飛行士を乗せて長距離遠征をするという計画なのである。  既に、この惑星ならば開拓して住めるようになるのでは?という星をピックアップしてある。それらの星を一つ一つ巡り、実地で調査を行い、また地球へと戻ってくる。望遠鏡や衛星である程度探索はされているものの、それでも未知の惑星に初めて地球人とその宇宙船が降りたつことになるのである。当然、プロジェクトのメンバーは選びに選び抜かれた精鋭となった。  まず、宇宙での活動に耐えられる強靭な肉体と精神があることが大前提。  その上で、リーダーシップに優れている者、暗号や言語解読に優れている者、無重力の中でも安全に料理を行って美味しい食を提供し、同時に考案し続けられる者。あらゆる生物学に精通したベテランの研究者に、天候、化学物質、地質学、様々なエキスパート。
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