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緊急事態が発生しました――
眉間にしわを寄せ、神妙な面持ちで彼はそう切り出した。
しかし女性社員、もとい音喜多佐和子はというと、電話を切るなりグッと伸びをして――
「――なによ。霊安室に幽霊でも出たの?」などと、先ほどまでの電話口とは別人のように気怠そうな声で応えた。
そして、ぷつんと糸が切れたかのように椅子に再び沈み込む。
佐和子は訝し気に細めた目で、値踏みをするように上から下へと誠人を眺めた。
実際、本当にこの世ならざるモノでも見てきたかと思えるほどに彼の顔色は悪く、額には玉のような汗が浮かんでいる。肩を大きく上下させ、腰のあたりで固く結ばれた両の拳はカタカタと震えていた。
「何があったか知らないけど、幽霊の一人や二人でいちいち驚いてたら保たないわよ。いいかげん慣れなさい」
彼女はぶっきらぼうにそれだけ言うと、椅子をきぃっと回して背を向けた。
「幽霊どころの騒ぎじゃないですよ!」
声を荒らげる誠人の心中は穏やかなものでなかった。どうしようもないほど不安でザワザワとさざめき立っている。自分たちがとんでもない異常事態に巻き込まれつつあると確信していたからだ。
その迸るまでの焦燥感を一刻も早く理解してもらいたくて、やきもきしながら身振り手振りを交えつつ、焦る気持ちを彼女の背中に投げかけつづけた。
が、必死の訴えも虚しく――
「……あのねぇ。ご遺体が『しゃべったー!』だとか、『ヒゲが伸びてるー!』とか、普段からしょうもないことで騒ぎ過ぎなのよ。あんたは」
「だから、そんなんじゃないんですって!」
――と、このような具合に彼女の反応は「けんもほろろ」であった。
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