LR44の秘密

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LR44の秘密

 イタリアンレストランを出て、酔っ払ったカナッペさんを駅まで送り届けた後、山田は「もう一本向こうの通りなんですけど」と言いながら智子をエスコートした。横を歩くと意外にスタイルの良い彼を意識してしまい、智子は何故か心が落ち着かなかった。暫し歩くと、山田はゆっくりと立ち止まる。 「……あれ?このハワイアンカフェ」  山田が選んだのは意外にも、智子のよく知るチェーン店だった。いつも行く場所とは違う店舗だが、ここならあまり緊張せずに済みそうだった。 「……智子さん、あの……アーモンドミルクラテでいいですか?」  注文カウンターのメニューを覗いた山田は、智子に確認するように尋ねた。 「え、ああ、うん。いいけど何でアーモンドミルクラテ?」 「……一緒に……飲みたかったから」  山田は俯くと、少しだけ笑みを浮かべた。そのまま店員へホットのアーモンドミルクラテを二つ頼むと、スマートフォンを取り出してモバイルコード決済をした。 「あ!私払うのに!学生さんにお金出させるわけには」  慌てる智子に山田は微笑む。 「大丈夫です。これでも僕、意外に稼いでるんで」  そう言いながらスマートフォンをホーム画面に戻し、ジャージのポケットへ入れる。彼の機種は最新のハイスペックモデルで、額面から言えば智子のスマートフォンの倍の値段が付くものだった。ただ、智子が気になったのはそのことではない。彼のホーム画面の壁紙が、非常に見覚えのある写真だったのだ。セルリアンブルーのワンピースを着た女性の、首から下の写真。 「……ねぇ、スマホの壁紙さ」  智子が口にした途端、山田はあからさまに「しまった」という表情をし、そのまま誤魔化すように、店内の空席を探しはじめた。 「──あ!ととと智子さん!ここ空いてます!先に座って待っていて下さい!」  取り繕うように座席を確保した山田は、智子を座らせるとカウンターへ取って帰した。そのままカウンター越しにトレーを受け取り、随分と慎重に運び始める。先程の写真に対しての言い訳を考えているのか、あまりにゆっくりとトレーを運ぶ山田に、智子は苦笑した。 「──山田君、もう何も聞かないから、早く持っておいで」  山田は安堵の表情を浮かべると、酷く嬉しそうな表情で二つのマグカップが乗ったトレーを運び、宝物のように丁寧にテーブルへ乗せた。
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