11人が本棚に入れています
本棚に追加
きっかけはノリコさんが、家のことをもう少ししてほしいと言ったことだ。
コージは、俺は曲作りをしなきゃならなくてヒマじゃないんだ、とつっかかった。
ノリコさんがふて腐れて、生活費を全部自分が払ってることをもちだすと、コージは逆ギレした。
「誰のおかげで飯が食えてるとか、昭和のオヤジみたいなこと言うなよ!」
やつはそう捨て台詞を吐いて、ドアをバシンと閉めた。
ノリコさんは、すっかりしおれてしまって、台所でカモミールティーをいれはじめた。
仕事で疲れて帰ってきたときとか、落ちこんだとき、ノリコさんはカモミールティーを飲む。
りんごと白い花をまぜたみたいな、ほのかに甘い匂いがする。
これを飲むと、元気がでるんだ。
ノリコさんがソファーでカモミールティーを飲みながら、ひと息ついていると、コージがこそっとリビングのドアを開けて顔をだした。
「ごめん……。さっきは怒って。でも俺、音楽に命かけてるからさ。曲のアイデアがでたとき、べつのことすると、気持ちが乱れるっていうか。バンド仲間も期待してるから、あせっちゃって」
「ごめんね、コージ。私、もっとちゃんと応援する」
二人はそう言って仲なおりしたんだよ。
でも、オレは知ってるよ。コージが普段なにしてるか。
コージは曲作りと練習が忙しいって言ってるけど、こいつはギター持ってるより、プレステのコントローラー持ってる時間のが長いよ。
オレはノリコさんの留守中、コージが家でなにしてるか、見てるから知ってるんだ。
教えてあげたいけど、どう伝えたらいいかわからない。
そんなこと考えてたら、ある日コージが、ノリコさんの留守中に、知らない女の人をつれてきたんだよ。
最初のコメントを投稿しよう!