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みんなに挨拶を終えた私は人事部を出て再び専務秘書室に戻ろうとした。
「椎葉」
呼ばれて振り返ったら、長身の男性社員が立っている。
「入江」
開発部の同期。シャツにカーディガンというラフな格好はシステム開発の彼は内勤だから。
開発部の階は別なのだけど、また営業部に呼び出されたのかな?
その手には大きな紙袋が提げられている。彼は長身だから、近づいてくるとさらに首を上に向けた。
今日の入江はどことなく元気がないようで、覇気がないように見えた。
「今日最後やろ?顔見に来た」
「そうなの。なんか年末でバタバタしててあんまり話せなかったね。報告も詳しくできなくてごめんね」
「ほんまやで。薄情者」
そこで私の額を軽くデコピンしてくるから、目を閉じた。でも、全然痛くなくて、私は苦笑いを浮かべる。
入江に話したかったけれど、同じ会社にいるから相談できなかった。相談しても「やめておけ」って心配されるだろうと想像はつくから……。
黙る私に入江は同じように苦笑を返してきた。
「でも、相手が専務やったら言いにくいか。まさかのまさか。灯台もと暗しや」
「あはは、私もびっくりしてる」
「まぁいろいろ聞きたいことがあるんやけど、今度にとっておくわ。ほれ、これ餞別」
手に持っていた大きな紙袋をよいしょと持ち上げ私の前に出す。
反射的に受け取ってずしりと重さを感じた。中身を覗き見ると、パッと前にもらった洋菓子店のクッキー缶が見えた。他にも以前にもらったお饅頭やせんべいなどの見覚えのある箱が入っている。
「わぁ、私の好きな関西のお菓子やん!」
「おかんに言うて送ってもろたわ」
「ありがとう!でも、ほんまにもらってええの?」
「当たり前やろ。俺ひとりで食べきられへんし。あ、妊婦やから食べ過ぎは注意やで」
「わかった。お母さんにもお礼を伝えてね」
紙袋を抱えて言うと、入江はまた微妙な顔をする。
笑顔なんだけど、でも、さっきみたいに元気がないような。
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