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それからジープは、川ぞいの道を三十分ほど走った。
やがてジープが止まったので、僕はようやく着いたか‥‥と思った。
が、そこでジープを停めただけで、更に細い山道を1時間ちかく歩くことになった。
やがて山道も途切れ、雑草をかきわけ、かきわけ、ようやく到着した木立の向こうに、その池はあった。
「対岸まで、五十メートルはあるでしょう」
と彼女は笑顔で言った。
「五十メートルの池……ですか‥‥。なーんか‥‥来て良かった‥‥かも‥‥」
と僕は、その池を見渡した。
不思議な色の水を重々しくたたえ、周囲の森が神秘さをかもしだしていた。
スイスあたりに在りそうな感じの池だった。
すると彼女は、
「どうです、釣れそうでしょう?」
近くの倉庫らしき小屋から、二本の粗末な釣り具を出してきた。
それは、細い竹竿にテグスと針がついただけの、金魚釣りくらいにしか使えそうもないな‥‥と思える物だった。
僕は仕方なく、その釣り竿を受け取ると、彼女と木製のベンチに腰を降ろし、糸を水面に下げた。
彼女は、子供のように楽しげだった。
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