月明り

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月明り

 星は見えないのにその夜は明るく、底で眠っていたはずの土が露わになっているのを照らし出している。  踏むと、少し柔らかい。温かそうですらある黒土。  ここに彼の欲望とその末路が埋まっている。十六回目の夜だった。  罪の意識に疎いシャベルの縁が、また悪意なく一枚の草を切っている。現場をあとにしよう、と思って彼はもう少し深くそれを差し込んでから、意識をもここから切り離そうとするかのように、少しの土を返してシャベルを引き抜いた。そして、その痕を蹴って消してしまう。  ふと、踵を返す片足に重みを感じて視線を落とした。薄汚れたスニーカー、それを摑む指が青白くそこにあった。  確かに、息の根の止まるまで殴ったはずなのだ。指は「彼」のものに見えた。背筋が泡立ち慌てて振り解こうとする膝を笑うかのように、土から伸びる四本は頑なに離れない。その下からくぐもった声がする。  月が綺麗ですね、と。 (20190107) #月が綺麗ですねを1番ホラーに書いた人が優勝
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