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ふとした静寂に流れるメロディの美しさに震えること、マンガの何気ないひとコマに救われること、細かく編まれた文字に感動することもない。
結果のみを追い求め、人を蹴落として前に進む。
それがかぐやが語る帝という男であるらしい。
とんでもない人間もいたものだ。
芸術を解さぬ人間に人を統治できるはずがない。
月の兎たちはそれぞれ文句を言いあい、かぐやを慰めた。
月の兎たちは宇宙を放浪しながら、歌って暮らしていた。
宇宙から聞こえてくる音を紡いで、自由に過ごしていた。
長い旅路の末、月にたどり着いた。
時折顔を覗かせる青い星が息をのむほどに美しかったから、彼らは永住を決意した。
月の兎たちは青い星を歌にしたり絵に描いたり、それぞれの技術でもって表現した。
あの星を見ていると、創造力が刺激される。
旅路で培ったノウハウを活かし、作業に取り組んだ。
そんなある日、青い星から女が逃げてきた。
着の身着のままで兎たちに埋もれた女は、かぐやと名乗った。
華やかな身なりをしていたので、兎たちが問いただすと貴族であることが分かった。
青い星で絢爛豪華な生活を送っていたが、嫁ぎ先の帝と折り合いが悪く喧嘩ばかりの日々を送っていた。
帝曰く、芸術とは人生に無意味である。
歌で喉の渇きは癒えない。絵で腹は膨れない。
薄気味悪い笑みを浮かべて、手駒を操り、自分の地位を獲得する。
歌の素晴らしさを理解できぬ帝はとんでもない男である。
月の兎たちはかぐやに同情し、匿った。
お互いに好きな歌を教えてあったり、地球を描いたり、楽しく過ごしていた。
帝のことなどすっかり忘れた頃、向かいの地球から人類が侵略し、旗を立てた。
月のコアに住むかぐや姫は横暴な人間に困ってしまった。
そのうち、帝もやってきて連れ去られるかもしれない。
そう思うと心底ゾッとした。
困り果てた姫は杵と臼を地球から持ってきて、兎たちに地面にある石を突くように命令をした。月の兎たちも強欲な人間に愛想を尽かしたらしく、人類滅亡計画へ賛成してくれた。
細かく砕いた石を地球に向かってばら撒いた。
それらは隕石となって地球へ無数に降り注ぐ。
今もぐるぐる回っている。
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