優等生

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 「優等生を演じ続けるのはしんどいだろう。友人達や恋人といる時間は、ありのままの姿でいればいいんだぞ」  個人面談で、担任の佐藤にそう言われた。  『ありのままでいよう』中学の道徳の授業でも、こんなことを言われた気がした。  高校生にもなって似たようなことを言われた僕は、佐藤に聞いた。 「……僕は、昔から他の子の見本になるような生き方をしなさいと言われて育ちました。それに慣れてしまったので、ありのままというのがよく分からないのですが、どうしたら、ありのままになれますか?」 佐藤は眉間に皺を寄せて深く頷くと、ゆっくり言った。 「梶原は、ずっと演じていたのか……疲れただろうな」 何に疲れるのだろうかという疑問は聞かず、僕は佐藤を見守った。彼は続けた。 「そうだなぁ……好きなことをしてみたらどうだ? 楽しいと思えることをする時間を作るんだ。そうしたら、本当の自分が見えてくるだろう」 佐藤曰く、過去にそれで明るく元気になった生徒もいたらしい。  付き合って3ヶ月になる恋人にも似たような事を言われ、『ありのまま』というのを考えていた所だった。  好きな事をする事なら出来るかもしれないと思った俺は、礼を述べて教室を後にした。  「好きな事……」 僕はそう呟きながら、夕飯の支度をした。包丁を持ち、鶏肉を一口大に切っている時、ふとそれを思い出した。    肉が裂け、骨に刃が当たる感覚。昔、両親とされる人間の腹部を包丁で貫いた時と似た高揚感が湧き上がり、僕は呟いた。 「これだ……」  夕食を作り終え、ベッドの近くの時計を見た。あと30分後に恋人がやってくる。彼女なら、本当の僕を受け入れてくれるだろうと、胸を弾ませながら彼女を待った。
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