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 寧々の後ろで、妖艶に微笑む。  御神殿を背に、まるでこの神社の神様とでも言わんばかりの態度で佇んでいる。  その者の両脇に立つ、六・六尺(2メートル)ある灯篭と差ほど変わらない背丈。  曲がりの無い長い髪は、地に着き四方へ広がっていた。  白肌に、切れ長の双眸は、見つめられると縄で縛られたように動けなくなる。  口には紅を塗っているのか、男にしては寧々に追いつくほどの美しい顔をしていた。  その男は、愛夜叉(めやしゃ)といった。  それの妖気は、これまで退治してきたどの妖怪とも異なる。  まるで、人の気と妖怪の気が混ざっているようだ。  だが、それだけの妖気とも違う。  これは、鬼の気で人と(あやかし)を複雑に絡めた——魔気(まき)。  魔物が言葉を発した。 「加茂信重といったな。少々、陰陽道をたしなむようだが」    愛夜叉の語りは、優しく、穏やかで、心の隙間が柔らかく埋まって行くようだった。まるで赤子に話しかけるように。  信重の視線は、目の前の寧々にあった。  寧々の肩越しに見える愛夜叉は視野に入っているが、焦点を合わせられない。  寧々のように、操られてしまうからだ。   「何も言わぬか。寧々は、とても良いのう。(われ)が貰うに相応しい女子(おなご)ぞ」    信重の額で、血管が脈打つ。陰陽道では、常に冷静を保つことが基本。だが……。   「いちいち、(かん)に障る奴やのう」    愛夜叉の異質な妖気がそうさせているのか、信重は、平静ではいられなかった。
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