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俺が杏華に初めて会ったのは一年前。彼女が勤める小さな会社のアルバイト募集のチラシを見て、面接に行った時のことだった。
部屋に入ってすぐの角にパーティションで仕切られた簡易的な客間があり、そこに案内された。
丸いガラス製ローテーブルを挟んで、二人掛けのソファーが向かい合っていた。面接官は社長だった。
「社長の源義知です。応募してくれてありがとう。まずは自己紹介をしてもらえるかな」
「はい! 初めまして、俺、弐可部信と言います。歳は二十五、特技は時飛びです!」
「募集チラシにも書いておいたけど、呪術は使える?」
「モチです!」
「わっはっは。元気があっていいねぇ。実力は、実戦で見せてもらうとしよう」
そう言うと社長は立ち上がり、パーティションから顔を出すと手招きをした。
「おーい、たのんます」
「はーい」
俺の耳にコロコロと入ってきた可愛らしい声は、心地よく懐かしい気持ちになった。そして、パーティションの向こう側から現れたのが源杏華だった。
彼女を見た瞬間、俺の中の何かが動き始めた。
容姿端麗とは彼女のためにある言葉なんだと理解した。
もしかしたら、俺好みで、俺にだけそう見えているのかもしれない。
だとしても、美しすぎる。俺は、彼女と会う為に生まれて来たんじゃないのかと思えるほど、釘付けになった。
「おはようございます。源杏華です。弐可部さん、採用合格ですので社内をご案内いたします。私に着いてきてください」
彼女の声は聞こえていたし、言っている内容も理解していた。でも俺は、じっと彼女を見つめ動けずにいた。
「弐可部さん?」
「は、はい! よろしくお願いします‼」
彼女は、優しみのあるなだらかな肩を揺らし笑っていた。
雑居ビルの二階と三階にオフィスを構える小さな会社だった。
個人経営で従業員は社長を除いて七人。
副社長の百合子さん。社長の奥さんだ。
そして事務員の杏華ちゃん。社長の一人娘。
あとは五人の呪術使い。そしてアルバイトの俺を入れて八名。
社名は、有限会社けものかり。
事業内容は、妖怪に目をつけられたり、憑かれたりして困っている人から依頼を受け、あやかし退治をすること。
基本的に、妖怪は心の隙間が好きだ。そういう人は憑かれやすい。
けものかりは百三十年続く老舗の会社だそうだ。
社長は、五代目の呪術使いだった。
それから数カ月、修行を兼ねて、俺は先輩に着いて何度も現場へ同行した。
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