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 ある夏の午後一時、失踪事件が多発している古民家へ、先輩と二人で向かった。  古民家に近付いた者たちが忽然と消える、奇怪な事件。  近隣の住民によると、家の中からお爺さんの呻き声が聞こえてきて、助けようと中に入った者は、二度と出てこないという。  その家の爺様は、昨年亡くなっており、住民は爺様の霊が寂しさのあまり連れて行こうとしていると言っていた。  二人は、ターゲットの古民家の前で、暫く様子を窺った。  それらしい声は聞こえてこない。   「先輩。声しないっすけど、中入ります?」 「いや、恐らくそれだと出てこない。奴が誘き寄せた時でないと駄目だ」 「じゃ、もう少し待つとしますか」    うぅぅぅ……。 「おい、聞こえたか?」 「はいっ。はっきり聞こえました! 行きましょう、先輩」  二人が家の中へ入ると、座敷の中央で、一人の御老人が苦しそうに蹲っていた。   「大丈夫っすか」    信は、老人の脇にしゃがみ、声を掛けた。   「おい、むやみに近づくな」 「でも、苦しそうっすよ」  突然、窓の外の光が暗転した。部屋の輪郭が柔らかく湾曲する。床も、壁も、水田のように泥濘(ぬかるみ)となり足を取られた。  仏壇の置いてあった場所が、真っ黒い穴へと変化した。  信と、先輩は足元に気を取られていた。  すると、黒い穴から太い触手が伸び、二人に襲い掛かった。湿り気のある皮膚は軟質で、なんとも不快で、まるでミミズのようだった。  部屋の入り口にいた先輩は、瞬時に反応し、刀剣で触手を切り落とす。  信は、呆気なく巻き付かれ、拘束されてしまった。 「弐可部! 罠だ。ここは妖怪の口の中だ」 「先輩! 俺、どうしたら?」  
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